保育園経営者の基礎知識を解説!

保育園を経営とはどういうものでしょうか?保育園経営の基礎知識を簡単にご紹介します。

保育園の主な形態

保育園は、大きく認可保育園と認可外保育園に分けられます。

・認可保育園

認可保育園は国が定める基準(施設面積、職員数、設備、衛生管理など)をクリアしている保育園のことで、都道府県知事によって認可された児童福祉施設です。厳密には、幼保連携型認定こども園や小規模認可保育園も認可保育園に含まれます。
認可保育園は公的な補助を受けられるため、保護者が支払う保育料は家庭の収入によって異なりますが、認可外保育園に比べ低めです。

・認可外保育園

認可外保育園とは、国の基準は満たしていないものの、各都道府県が定める基準に基づいて運営されているのが特徴です。例えば、東京都の基準をクリアした認証保育園は、知事の許可を得て運営されています。
認可外であることから、児童福祉施設には該当しないものの、厚生労働省による「認可外施設指導監督基準」に則って運営することが求められているため、保育サービスの水準は必ずしも低いわけではありません。
認可外保育園は認可保育園のように補助金があるわけではなく、また集客も自ら行わなければならないため、経営的に不安定になりやすい傾向があります。ただし、認証保育園のように、各自治体が独自に行っている制度に基づく補助金は受けられます。内閣府管轄の企業主導型保育事業も認可外保育園に該当しますが、運営費や施設整備費など補助金が活用できます。

いずれの形態においても、児童の保育を担うことによって得られる収入が運営の根幹となるため、これをいかに安定させるかが重要です。

保育園経営者に必要な資格とは

保育園を開業・経営するにあたって必要な資格は、自治体が運営する公立保育園と民間事業者が運営する私立保育園とで異なります。
公立保育園は自治体が運営するため、一般的な‘経営’とは少しニュアンスが違いますが、園のマネジメントをするのが園長先生だとすると、園長先生になるには、保育実務経験が必須です。公立保育園の保育士は、地方公務員であるため、保育士資格だけでなく、公務員試験を受けて地方公務員の資格を取得しなければなりません。
他方、私立保育園を開業・経営するには、特別な資格は必要ありません。実際に保育にあたる人が保育士資格を持っていれば、経営者は保育士の資格を持っていなくても問題はないのです。もちろん、何の知識もなく経営はできないので、最低限の保育、経営の知識、公共政策などについて知っておく必要はあります。

設立基準

保育園は、地方自治体の指導・監督の対象で、開業するには、無認可であっても自治体へ届け出が必要です。
認可保育園を開業・運営する場合には、国の定めた設置基準をクリアしなければなりません。例えば人員配置基準はその代表的なものです。人員配置基準とは、預かる園児の数に対して配置しなければならない保育士等の数のことです。
設備面では、乳児室と保育室、調理室、医務室、トイレ、園庭が必要であり、災害に対応した設備もなければなりません。

保育園経営のメリットとは

経営する視点で保育園事業を捉えると、認可保育園は他業種に比べて初期投資は少なく利益率が高いため、投資回収率が高いところがメリットと言えるでしょう。経費の大半は施設の賃貸料と保育士の人件費です。在庫等を抱える心配はありません。開園のために必要な土地や建物は、立地や規模によって建築費、内装工事費、設備費などが変動しますが、認可保育園の場合は助成金が受給できるので、負担を一定程度は抑えることができるほか、建物の修理改修や防犯対策などの経費に対する保育所等整備交付金保育所等におけるICT化推進補助金など、運営改善に伴う補助金も用意されています。
他方、認可外保育園の場合は、補助金はほとんど受け取れませんが、認可保育園と比べて開園時間や設備、保育カリキュラムなどを柔軟に変えることができ、差別化しやすいことがメリットと言えます。例えば、英語教育に特化し、日常生活から英語に触れられる環境にしたり、アート教育やスポーツ教育など独自性を追求することもできます。
認可・認可外保育園問わず、収入は預かる園児の数によって決まります。何らかの事情がなければ、入園したら数年はその保育園に通うことになるため、他のビジネスと比べれば非常に安定した経営が見込めるビジネスモデルです。また、保育園は子育て世帯にとって欠かせない存在で社会貢献度が高いところも魅力の一つです。

保育園経営の課題とは

保育園を取り巻く課題の1つとして、少子化が急速に進む中での園児数の確保が挙げられます。地域によっては、すでに保育所の統廃合も進んでいます。
また、保育園は子どもの命を預かる施設です。子どものケガや事故などにも適切に対応しなければならず、ましてや保育士による虐待は絶対にあってはなりません。万が一、対応を誤って悪いうわさが広がれば、園児が集まらず、経営が成り立たなくなることもあります。
保育園経営を安定させるには、保育士の確保と定着が不可欠ですが、優秀な人材の確保は簡単ではありません。
近年の保育園数の増加により、2021年の保育士の有効求人倍率は2.66倍で、全職種平均の1.16倍と比べると、依然高い水準で推移しています。時期によっては求人費のコストかさんでしまうこともあるでしょう。

保育園経営者が抱える3つの悩みとは?~人材・教育・コスト~

先に保育園経営の難しさに触れましたが、具体的な保育園経営者のよくある悩みと、課題である「優秀な人材確保」「保育士の教育」そして「経営コスト」の3つについてご紹介します。

保育園の利用ニーズが高まる一方で保育士不足は続いていますが、その主な原因の一つとして、保育士の多岐にわたる仕事内容と仕事量の多さ、そして給与の少なさがあげられます。

厚生労働省が2020年に発表した『保育の現状と主な取組』によると、全職種の月収換算が40.7万円に対して保育士は30.3万円となっており、低い賃金体系が社会問題となっています。

さらに、2018年には保育所保育指針が改定され「子どもたちの育ちや生活」に軸を置いていた保育園も、幼稚園同様に「教育施設」として位置づけられ、保育士の質の向上とそれに伴う研修体制が必要になったのです。

保育士不足の中で、質の高い保育と研修時間の捻出のための「人」「教育」「コスト」が保育園経営者にはのしかかっています。

【悩み①】保育園の人材を確保するコツ

保育士の退職理由で「仕事量が多い」「労働時間が長い」と答える人は半数以上にのぼります。保育士を確保するポイントとして業務の分散や効率化は必須です。その方法をいくつかご紹介します。

保育補助の積極的な採用

保育士は保育の仕事に加え、登降園の対応や保護者からの電話対応、制作の準備や片付け、清掃などの事務や雑務も兼任することが珍しくありません。こういった保育以外の業務を保育補助に任せると、保育士の負担をずいぶんと減らせます。

また、保育士を目指す学生などを保育補助で採用すれば、資格取得後に正規保育士として声を掛けやすくなる利点もあります。正規雇用前に人となりが分かる上、園の実情も分かった人物となるので、有能な人材確保の先行投資としても有効です。

パート・アルバイト保育士の活用

保育士が短時間勤務(パート・アルバイト)をできる多様性のある働き方もポイントです。

週3日・1日3時間などの勤務が可能になると、育児や介護など家庭の事情がある保育士も働きやすい環境になります。わずかな時間でも、保育補助よりも幅広い業務を任せられる資格を持った保育士が増えることでフルタイムの保育士にも余裕が生まれます。

パート・アルバイトの保育士がいる時間帯に研修やミーティングを行ったり、連絡帳や保育日誌の作成時間にあてたりと正規の保育士が自由に動ける時間が多くなり、残業の削減にもつながります。

変動労働時間制を導入する

残業時間の削減には「変形労働時間制」もおすすめです。変形労度時間制とは、通常1日8時間とされている労働時間を、月単位や年単位で調整できる制度です。

変形労働時間制を導入すると、今月勤務時間が長かった保育士は翌月を短く設定するなど、個人の仕事内容や繁忙期に合わせてシフトを調整できるため、労働時間を効率的に利用できます。

暇な時期でも必ず8時間は職場にいなければならないような無駄な時間は減り、早く上がった分を忙しいときの勤務時間として回せるので、残業手当が減らせるのも経営的なメリットです。

また、各個人で上がる時間が異なるので、先輩が残っているから残るというような「付き合い残業」も発生しにくくなり、働きやすい環境が整います。

【悩み②】保育の質や専門性向上のポイント

2018年の保育園保育指針改定で「幼児教育施設」と位置づけられた保育園は、幼児教育の専門機関として保育士の研修とその時間の確保が必要になりました。多忙な保育業務の中でどのように研修時間を生みだせばよいでしょう。

ICT化による業務の効率化

保育ICTシステムは、保育士の業務時間を大幅に削減します。連絡帳や報告書、日案や週案、月案、計画書などの多数の書類作成を効率化し、作業時間を減らして研修時間を作り出せます。

また、前述のとおり保育士の時間の捻出には、パート・アルバイトの採用や変動時間制が有効ですが、勤務シフトや給与体系の複雑化に頭を悩ませる経営者の方も少なくありません。

ICTシステムを導入すれば、シフト作成や給与計算も自動化し、園全体の勤怠管理も容易になります。外部研修に参加するメンバーのシフトもスピーディに調整できるので、誰がどのような研修に何回参加したのかも把握しやすくなります。

外部講師を招く

英語や体操など、専門知識を持つ外部講師を招くカリキュラムを組み込んで、その時間帯を研修時間に活用するのも手です。

外部講師による専門的な授業やカリキュラムは子どもたちの刺激となることはもちろん、在園児の保護者や入園を検討している人にも保育園の特色としてアピールしやすく、経営的なメリットも十分にあります。

人材派遣を利用する

研修中に代わりとなる人材が確保できない場合は、職員の研修期間に合わせて保育士の人材派遣会社に依頼するのもひとつの方法です。

研修のために慌てて募集しても良い人材が見つかるとは限らず、すぐに辞められてしまうと採用コストも無駄になってしまいます。しかし、派遣なら即戦力になる保育士がすぐに手に入ります。

保育士を自社で雇用し、研修をおこなっている派遣会社なら専門的な知識があるスタッフが派遣されるため、保育の質も安心です。

【悩み③】保育園の経営コストを削減する方法

保育園経営において人件費は全体の運営費のおよそ8割を占めており、保育士の給与向上の影響ははかりしれません。人件費に関わるコスト削減方法について詳しく解説していきます。

ICTによる見える化で人件費の無駄を抑える

保育ICTシステムを導入すると、多様な勤務体制の導入や各自の勤務状況を最適化することで、人件費をむだなく利用できます。

また、時間がかかっていた日報やおたより、保育目標などの作成をテンプレートやデータ共有で効率化できるため、保育士は勤務時間中にスピーディに処理できるようになり、残業時間と残業代の削減にもつながります。

保育士派遣を利用して採用コストを抑える

保育士の採用コストは1人あたり40~50万円とも言われますが、採用できたとしても早期に離職することも少なくありません。保育士派遣は、この採用コストなしで確実に雇用できるのが大きなメリットです。

紹介予定派遣という形も選べるため、職場の雰囲気や働き方を知ってもらったうえで、本採用をすることも可能になります。

初期費用や運用費はかかりますが、繰り返しの離職が起こるリスクなどを考えると、一時的な保育士派遣や紹介予定派遣制度などを上手に活用することで採用コストは大きく下げられるでしょう。

助成金や補助金を最大限に利用する

保育園の運営には国や地方自治体から、助成金や補助金が支給されています。保育園の事業形態や規模など条件によって支給の有無や金額は異なりますが、必ずチェックしましょう。

認可保育園の場合

認可保育園の運営補助金は、園児の人数に応じて支給され、児童の年齢が低いほど支給額は高くなります。一人当たりの金額は、国が算定する「公定価格」から保育料を差し引く形で計算されます。

また開設や整備事業を行う際は、「保育所等整備交付金」と「保育対策総合支援事業費補助金」から整備費が支給され、2分の1~3分の2以上の費用を賄えます。

その他の保育園の場合

国や地方自治体の補助が基本的にないといわれる認可外保育園でも様々な補助体制が整えられています。

例えば、「企業主導型保育事業」は2016年度まで実施されていた「事業所内保育施設設置・運営等支援助成金」を拡充した国の制度ですが、事業所内に保育施設を設置する場合の整備費や運営費の補助を行っています。

また、病院や診療所に保育施設を設置する場合は、「院内保育事業運営費補助事業」が人件費や運営費の一部を補助してくれます。

東京都や横浜市など、保育園ニーズが高い地域では独自の助成を行っている自治体もありますので、確認してみましょう。

まとめ

保育園の経営は人材と教育、そしてコストという3つの大きな課題が存在します。

保育士の離職の主な原因の1つとして業務量の多さがあげられています。人材確保や教育時間の捻出のためにも、業務の見直しは欠かせません。それには、パート・アルバイト・派遣保育士の活用や、変動時間制の導入で正規保育士の負担を減らすことのほか、保育ICT化で事務にかける時間を短縮するなどの対策が有効です。

ICT化すれば、複雑な勤務体制でもシフト作成が容易になり、無駄のない勤務体制で残業を減らすことにもつながり、運営コストの大部分を占める人件費も削減できます。

このほか、保育園の利用ニーズの高まりから、国や地方自治体は保育施設に対する助成金や補助金の精度を充実させています。これらもうまく活用し、保育士が長く働ける環境づくりを整備していきましょう。


参考文献:

厚生労働省 令和2年 保育士の現状と主な取り組み
厚生労働省 令和3年 保育士の有効求人倍率の推移
内閣府 令和元年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報値>【修正版】
東京都 令和3年 認可外保育施設に対する指導監督要綱(10月1日改正)