【最初から読む】登園・降園も、保育士の勤怠管理もすべて手作業。保育士が疲弊する現場を変えたかった…第1回目のインタビュー記事はこちらから。
直営保育園があるからできる。子どものデータは700万件超
Q:CHaiLDが提供する保育システム・Child Care System(チャイルドケアシステム・CCS)を活用して、どのように「保育の個別最適化」を達成するのですか?
貞松:前回お話したように、現在でもCCSにはグループ会社の直営保育園で蓄積された子ども3,000人分、件数にすると約700万件ものデータがあります。2018年からの2年間で集めたデータです。
「保育の個別最適化」は、簡単に言ってしまうと、この膨大なデータベースから、似たような発育パターンを持つ子どものケースをピックアップすることから始めます。
そのケースの子が、「何歳で」「どんなことに関心を持ち」「その後どんなふうに発達・成長したか」ということがわかれば、今まさに目の前のいる子どもが、これからどんな成長をしていくか、どんなことに興味を持つかを、大まかに予測することが可能になります。
すると保育士は、それをもとにその子に合わせた遊びや学びを提案したり、保育計画に生かしたりすることができます。
もちろん一人として同じ子どもはいませんから、データは多ければ多い方がいい。保育の個別最適化を実現するためには多くの子どものデータが必要なのです。
これまでであれば、手書きや紙で残されていた園児に関する膨大なデータは、古くなるとシュレッダーにかけられて処分されていました。
しかし、すべてのデータをクラウドに保存できれば、データを余すことなく解析でき、未来の保育に役立てられます。
現在も、この解析を進めている最中です。
Q:データを解析することは、子どもの発達を予測するほかにどんなメリットがありますか?
貞松:データ解析は、子どもたちだけでなく、保育士のサポートにもなります。
従来の保育は、それぞれの保育士の経験に頼る部分が多かったのが事実です。
言ってみれば、経験則に基づいたその人なりのやり方で、子どもたちに対応しているのです。
ただ、当たり前ですがベテランばかりではありません。東京は特に10、20代が保育士全体の3分の1以上を占めていて(注2)、キャリアが浅い人も多いのです。
しかし、データを活用することで経験を補い、クオリティの高い保育が提供できる可能性は高まります。
我々にとっても経験豊富な保育士の存在は非常に大切なのですが、データも活用することで、より質の高い保育を提供できれば良いと考えています。
子どもの興味・関心がわかる2つのキーワード
Q:子どものデータを活用するために、具体的にどのような研究をしているのですか?
貞松:さまざまな研究を行っていますが、そのなかの1つをご紹介します。
これから紹介する研究のテーマは、「保育士は子どもの興味・関心をどのように予測しているのか」ということです。
まず、経験年数が異なる保育士20名を集めました。
10人の子どもが砂遊びをしている動画を10分間ほど見てもらった後、動画を見た保育士に一人ひとりのこどもが何に興味を持っているのかを回答してもらいました。
この研究の結果、子どもの興味・関心を理解するためには2つの重要なキーワードがあることが分かりました。
それは「共同性」と「再現性」です。
誰かと一緒に遊びたい、という「共同性」と、同じ遊びを何回も繰り返す「再現性」が、子どもの興味・関心を把握する上でとても重要だと分かったのです。
Q:研究の結果をどのように活用する予定ですか?
貞松:保育士は、その日の子どもの様子を毎日CCSに保育日誌として記録します。
そのときに「共同性」や「再現性」を示すようなキーワード、例えば「〇〇ちゃんと△△ちゃんと一緒に遊び始めた」とか「積み木で何度も同じおうちを作っていた」といった言葉が出てきます。
この「一緒に~」「何度も~」「繰り返し~」といった言葉をAIが抽出し、「共同性」「再現性」を表すデータとして記録します。
これによって、その子が近い将来にどのようなことに興味を持つのかという予測が立てられるようになりました。
このように、日々の記録からも発育のデータを収集・分析することにより、一人ひとりに合わせた保育を提供につながっていくと考えています。
【続きを読む】第4回 保育園も選ばれる時代に 選ばれる保育園になるために必要な要素とは
さだまつ じょう
学生時代に少子高齢化という人口問題を知り、2007年に株式会社global bridge設立。千葉県にて無認可保育所(のちに認可保育所へ転換)を開園。2014年、保育園運営管理システム「Child Care System」をリリースし、ICT事業を開始 2017年保育ロボット「VEVO」の開発に着手。