保育・幼児教育の質の向上が求めらるなか、保育者の資質と専門性を高めるため、保育カンファレンスに取り組む施設は多いのではないでしょうか。今回は、保育カンファレンスを効果的に行うための方法をまとめました。

保育カンファレンスとは

そもそも保育カンファレンスとはどのようなものでしょう?
保育カンファレンスは、保育の事例や特定の事象に対して、問いを持ち、保育者間や外部の第三者を交えて感じたり、思ったりしたことを話し合う会議体のことです。子どもの姿や保育者の関わり、環境構成について、立場や経験の違う参加者が対話することで、日々の保育を振り返り、新たな気づきを得ることができます。

保育カンファレンスの課題~本音が言えない若手保育士

保育カンファレンスを行っても、若手保育士がなかなか本音を言えなかったり、園長先生やベテランの先生の意見が尊重されてしまったりすることがよく目にされます。しかし、それでは保育カンファレンスの本来の目的が達成されたとは言えません。保育カンファレンスの本来の目的とは何でしょうか。

保育カンファレンスの目的~参加者全員の意識変容と人間関係の向上

保育カンファレンスの目的とは、参加者全員の意識が変わり、人間関係が向上されることです。
この目的を達成するためには、ファシリテーター(司会)の進行のもとに、問いとその問いに対する結論(仮説)を導き出す過程が重要となります。
「参加者全員の意識の変化」は問いを具体化していく中で問題の着眼点が変わっていったり、参加者から多様な意見が出ることで促されます。
「人間関係の向上」は、問いに対して、建設的な意見が提示され、またその意見を受け入れてもらう過程を通して促されていきます。

つまり、保育カンファレンスは、子どもの姿や子どもへのかかわり方などを全員が振り返り、それまで気づけなかったことを発見する過程で、保育に対する意識が変わり、互いの意見を認め合うことで人間関係が向上していくための手段と言えます。

保育カンファレンスの方法

保育カンファレンスは様々な方法で行うことができます。なかでも、保育を見える化して行うカンファレンスは子ども理解を深めることができ、とても効果的です。代表する2つの方法をご紹介します。

フォトカンファレンス

フォトカンファレンスは、保育者がカメラを持ち様々な角度から保育の様子を写真で記録します。撮影した写真を振り返りながら遊びの経過の写真を数枚並べることで、遊びの展開や子どもの興味の変化が読み取りやすくなります。また、写真とテキストでまとめたものをフォトカンファレンスで共有することで意見を出し合いますが、その成果物を保護者に共有し、子どもの様子を伝えるポートフォリオとして二次活用することもできます。
フォトカンファレンスは、保育の様子を写真をまとめる過程の中で保育の振り返りに役立つ一方で、事前準備に時間がかかり、保育を行いながら写真を撮影する難しさがあります。また、撮影者のバイアスがかかり、自分が伝えたい部分の写真しか共有されないといったデメリットもあります。

ビデオカンファレンス

ビデオカンファレンスは、保育の邪魔にならない位置に三脚を立てて保育の様子を動画で撮影します。気になる場面を視聴しながら、子どもの姿を読み取っていきます。全体を撮影すれば、保育中は捉えきれない子どもの動きや興味、保育者の関わりなど一連の流れを客観的に見ることができます。さらに実際の声がけや周囲の音の情報も入り、気づきも多くなるといったメリットがあります。
保育者の思い込みで子どもの姿を語られることがなく、実際の保育中には気づけなかったことに気づくことができるため、保育の専門性を高めることができますが、全体が映る位置にカメラの画角を調整する難しさがあります。また撮影された保育者に対して、参加者から指導的な意見がでることもあります。ビデオカンファレンスに限ったことではないですが、意見が否定的にならずに、建設的な意見交換になるようファシリテーターがしっかりと整理しながら進めることが重要です。「○○のところは良かったけど、こんな方法もあると思う」「ここでの○○の声掛けが子どもにとって興味の広がるきっかけになったのでは?」など具体的な場面でよかったところは認めるようにすると、実践者の自信につながり、意欲も高まります。

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次に、カンファレンスの進め方について、ご紹介します。

保育カンファレンスの進め方

前述のカンファレンスの目的を達成するためには、おおむね下記の手順に沿って進めていきます。

事前準備

環境・集中できる静かな環境を用意する
・人数は最低3名~最大5名
・30~90分程度の範囲で時間を確保しておく
参加者・ファシリテーター(司会)1名を決めておく(主に園長先生)
・発表者1名を決めておく
・聴講者1名~3名(うち、書記1名)を決めておく
発表者の準備①何が知りたいのか
②現在の状況を踏まえて、なぜ、知りたいのか
③問いが明らかになることで、どのような状態を目指しているのか
(フォトカンファレンスの場合)日常の場面の写真を記録。写真データの中から遊びの経緯がわかるよう写真を複数(6~10枚)選んでおく。
(ビデオカンファレンスの場合)日常の場面を動画で記録。どの場面が気になるのか、時間をメモしておく。

保育カンファレンス当日の進め方

  1. 発表者:どんなことを知りたいのか、現在の状況とその問いの理由などが明らかになることで、どのような状態を目指しているのか(事前準備の①~③)を発表する。
  2. 司会者:聴講者に発表の内容について、抽象的だったところ、わかりにくいところはどこだったか質問し、問いを具体的にする。
  3. 司会者:②の結果を踏まえて、改めて発表者が「何を知りたいのか?(問い)」を確認する。
  4. 司会者:発表者が知りたいことについての意見を聴講者に求め、聴講者は自由に意見を言う
  5. 司会者:これまでの意見を踏まえて、発表者・聴講者に、最初の問いも対する結論(仮説)へ導くよう促す
  6. 司会者:導かれた結論(仮説)を確認し、合意形成がなされているか確認する
  7. 司会者:結論(仮説)の検証期間を決定し、振り返りの時期を設定する

以上のような流れで進めていきます。保育カンファレンスを進めるにあたっては、ファシリテーター(司会)の役割に注意が必要です。ファシリテーターの役割については次でご紹介します。

保育カンファレンスを行うための注意点

ファシリテーター(司会)の役割

ファシリテーターの役割は、保育カンファレンスの場で中立的な立場から発言や参加を促したり、出てきた意見がわかりにくい場合は言い換えて話の流れを整理したり、参加者の認識の一致を確認したりすることです。会議中に自分の意見を述べることや意思決定をすることはファシリテーターの役割ではありません。
話し合いの中で話が逸れてしまった場合には、状況に応じて軌道修正を行う必要があります。視点を変えて質問をし直すなど、話し合いが深まるよう働きかけます。
話し合いが終わった際には、出てきた意見をまとめる必要があります。ここでいうまとめとは、出てきた意見のなかから何をするかを決めることではありません。参加者は様々な意見を聞き、選択肢や気づきを得ますが、どれを実践するかは参加者自身が決めます。それを再確認、まとめることで、参加者全員が話し合いを相互理解できるようになり、共通認識を高めることができます。

保育カンファレンスを行うための注意点

話し合いでは、出てくる意見を否定しないことが大切です。誰かが否定されるのを見てしまうと他の参加者も意見を言いづらくなってしまいます。
また、話しやすい環境づくりにも配慮が必要です。アイスブレイクの時間を設けたり、日常の雑談からテーマを拾ったりすることで話やすくなります。参加者が大人数の場合は意見を言う機会が減ってしまうため、少人数(最低3~5名)で進めるほうがよいでしょう。

まとめ

保育カンファレンスは、参加者全員の意識が変わり、人間関係が向上されることが大切です。
この目的を達成するためには、ファシリテーターの進行のもとに、問いとその問いに対する結論(仮説)を導き出す過程が重要となります。

経験や立場の違う参加者からさまざまな意見がでるためには、ファシリテーターは中立的な立場から発言や参加を促し、参加者の認識の一致を心がけましょう。そして、どんな意見も否定せず、様々な意見の中からどれを実践していくかを自ら選んで保育に取り入れていける保育カンファレンスを実践し、保育の質を高めていきましょう。


参考文献:
AIAIグループ 施設長の教科書 -あい・あい保育園編-
奈良市 子ども未来部子ども園推進課 平成31年3月 協働的なカンファレンスのすすめ 
全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 ドキュメンテーションを用いた保育カンファレンスの取り組み