保育園で起きるヒヤリハットとは何か
保育園で起きるヒヤリハットとは、大きな事故や重大なケガにはつながらなかったものの、子どもたちに危険が迫りヒヤリと冷や汗をかいたことや、ハッと驚いた事例のことです。
マニュアル不足やルールが徹底されていない状況や、職員間の伝達の不備、子どもの行動への油断などから、このようなヒヤリハット事例が発生すると言われています。
保育園で起きた事故の年間件数
ヒヤリハットが大きな事故につながる可能性もあるため、未然に防ぐためには、小さな事故やケガが起きた原因も見逃せません。
2020年に内閣府子ども・子育て本部から公表された「令和元年教育・保育施設等における事故報告集計」によると、報告された重大な事故事例は1,299件にものぼります。とくに多いのが転倒や遊具での負傷によるもので、死亡例では睡眠中に亡くなっているケースもあります。
子どもたちを事故から守るためにも、保育士が園内外の活動中の危険について事前に熟知し、マニュアルやルールに沿った園児の管理を徹底する必要があります。
項目 | 認定こども園・幼稚園・保育所等 |
---|---|
負傷等合計 | 1,293件 |
意識不明 | 10件 |
骨折 | 1,011件 |
火傷 | 7件 |
他 | 265件 |
死亡 | 6件 |
事故報告件数 | 1,299件 |
保育園内でよくあるヒヤリハット事例と対処法
安全に配慮された園庭や室内でも、子どもの思いがけない行動で発生する事故は数多くあります。また、子どもたちの毎日の活動内でも、重大事故が起こる可能性があるため、注意が必要です。
ここから紹介する事例を事前に把握しておくことで、園庭や室内で起こりうる事故の可能性を予測し、子どもたちを危険から守りましょう。
午睡中のトラブル
死亡事故など重大な事故がとくに起きやすい時間が、午睡中といわれています。
挙げられる原因は、いつの間にかうつぶせ寝になっていて、口や鼻が塞がって窒息してしまうケースです。
また、うつぶせ寝は、乳幼児が突然死亡してしまう原因不明の病気、SIDS(乳幼児突然死症候群)を誘発しやすいとも言われています。
そんな午睡中の事故を防ぐために、午睡チェックとあわせて、近年ではうつぶせ寝を感知するセンサーの導入も進められています。
センサーと保育士のダブルチェックで見守り、体に触れていつもと違う様子があれば職員間で情報を共有し、保護者へ伝達するのが重要です。
転落や転倒しそうになったとき
事故報告として多い負傷は、転落や転倒によるものが多いとされています。
遊具から転落したり、不安定な歩行によって転倒したりした結果、骨折などの事故につながるケースが多いのが特徴です。
戸外活動が多い午前中だけでなく、午後の事故も多いのは、疲れから子どもの集中力が落ち、注意が散漫になることからと言われています。
そのため、職員は子どもが高揚して激しい動きをしていないか見守り、こまめに声掛けを行う必要があります。
対策として、園舎マップなどを作成して園内の危険な場所や注意すべき箇所を職員間で共有し、随時更新していく方法も事故防止に役立つでしょう。
ゴミやおもちゃの誤飲
子どもは思いもよらないものを口に入れることが多く、ごみやおもちゃの誤飲による窒息なども、よくある事故として挙げられています。
3歳児の口径は4cm程度あり、トイレットペーパーの芯を通るものならば、口に入り窒息する恐れがあると言えます。
また、月齢に合ったサイズのおもちゃを使用していても、異年齢の子どもたちが一緒に遊ぶ場面になると、危険なサイズのものが混じる可能性もあります。
はがれた絆創膏や外部から持ち込んだビー玉、小石などに注意し、おもちゃは部品が外れない工夫のされたものを使用しましょう。
窒息の事故事例があるおもちゃや道具などは、施設内で情報を共有し、除去してください。
食物アレルギー
小麦や卵、牛乳などの食物アレルギーを持つ子どもへの誤配膳などで発症する、アレルギー症状にも注意が必要です。
総務省の調査結果では、保育所全体の約9割に食物アレルギーを持つ子どもが在籍しており、約5割の保育所で配膳ミスなどの事故が起きています。クッキング体験でのアレルギー食材の取り扱いや、小麦粘土などのおもちゃの管理など、細心の注意が必要です。
現在、調理時や配膳時のダブルチェックに加え、食器の色を変え、ネームプレートと食べられないものを記載するなどの対策が取られています。
人手の少ない土曜日に事故が起きるケースもあるため、園児全体のアレルギー情報の共有とルールの徹底が重要です。
やけどしそうになったとき
事故事例として挙げられる数は少ないですが、園内にはやけどの危険性も潜んでいます。
実際に、配膳車でスープを運んでいた際、職員が後方確認した一瞬の間に、子どもがスープの入った鍋に手をかけて大やけどを負ってしまうという、痛ましい事故も起こっています。クッキング体験中の油はねや、ストーブの管理にも注意が必要です。
また、事故の予防策として、子どもが活動する範囲や時間帯には配膳車を入れない、ストーブには囲いをつけるといった環境整備が必要です。
もし事故が起きてしまっても、やけどに至らないよう、食事や飲み物は40℃以下に冷ましてから移動すると安全です。
水遊び中のトラブル
水遊び中は、すべって転倒し頭を打ったり、水を飲んで溺れてしまったりといった、さまざまなトラブルが想定されます。とくに重篤な事故につながりやすいのが、溺れているのに気づかないケースです。
乳幼児は10cmほどの深さの水でも溺れてしまう可能性があります。万が一、気づくのが遅れてしまえば、手遅れになってしまう可能性が高くなります。
子どもは、歩行が不安定で転びやすく、顔が水に入っても対処できないまま気管内に水が入り、静かに溺れてしまうということを念頭に置いてください。
監視者と指導者を分けて人員を配置し、監視者は話しかけたり業務を行ったりせず、監視に徹することで子どもたちを守りましょう。
人や物にぶつかりそうになったとき
子どもは歩行も不安定で危険の予測に対して未発達なため、人や物にぶつかっただけで転びやすく、重篤な負傷につながる可能性もあります。
はさみなど危険なものを持ったまま移動して人にぶつかったり、移動中に走り回って棚などに衝突したりなど、園内のさまざまな場所に危険があると言えます。子どもの発達や活動内容によっても、危険な場所や状況は変化していきます。
対策として、棚やロッカーなどの尖った角にコーナーガードをし、友だちが飛び出してきやすい場所や危険が増す状況を子どもたちに教えておく必要があります。
職員間では安全対策をまとめた事故防止チェックリストを活用し、職員ひとりひとりの安全意識を高めるのも重要です。
保育園外でよくあるヒヤリハット事例と対処法
子どもの行動範囲が大きく広がり、職員の目が届きにくくなる保育園外での戸外活動中も、ヒヤリハット事例が多いと言われています。
散歩や公園などの目的地での遊びは、子どもが身近な自然や地域の人たちの生活に触れ、体験を通してのびのびと成長するための貴重な体験です。
安全な園外活動を行うために、ヒヤリハット事例と対策を学んでおきましょう。
公園でのトラブル
公園遊び中のトラブルで多いと言われているのが、遊具を使った遊びで起きる事故です。園外活動中は子どもたちも遊びに夢中になり、周囲も見えなくなりやすいため、負傷につながる事故が多い傾向にあります。
そのため、いつもは遊ばない遊具に挑戦しようとして失敗し、ケガや骨折をしてしまうケースなども考えられます。
低年齢児であっても、施設外の活動は開放的な環境のため園児の行動も大胆になりやすく、危険度が高まる可能性があります。職員は子どもたちと危険な遊びをしない、公園を出ないなどの約束をし、どのような状態にあるか把握するのも重要です。
また、遊具の高所へのアクセスや、着地部分の地面の硬さなどにも注意し、子どもを見守る体制に隙ができないよう配慮する必要があります。
散歩中のトラブル
戸外活動の一環で、公園などの目的地までの移動である散歩中にも、交通事故やトラブルの可能性があります。
重大事故としては交差点で交通事故に巻き込まれて、多数の死傷者が出てしまったものもあります。また、基本的な交通ルールを守っていても、子どもたちは手を振り払って走り出したり、犬などに近づきすぎたりといった予想外の行動を取る可能性もあります。
散歩のルートは、交通量の少ない時間帯の住宅地や歩行者専用帯がある道を選び、たばこの吸い殻や危険な動植物、落ちやすい側溝などがないかも下見しておきましょう。
子どもが予想外の行動を取っても対処できるよう、散歩を監督する人員を複数確保するのも重要です。
目的地からの帰る際も、子どもの健康状態と人数を確認し、点呼後に列を離れて置き去りにならないよう、全体を見ながら声掛けなどを行います。
不審な人物
散歩中や公園遊びなどの戸外活動中は、子どもたちを狙う不審な人物にも注意が必要です。子どもたちを恐怖にさらさないよう、事前に対策を取っておく必要があります。
施設周辺での不審者目撃情報など、近隣住民や自治体とも連携を取って情報を共有する必要があるでしょう。散歩中は防犯ブザーを携帯し、人通りが少なすぎたり、子どもたち全体が視認しづらかったりするルートは避けてください。
また、子どもたちが不審者に近づかないよう、警視庁が公表している「いかのおすし」の約束などで訓練を定期的に行いましょう。
・いかの…いかない、のらない(知らない人について行かない、車に乗らない)
・お…おおごえをだす(助けてなどの言葉を大声で)
・す…すぐにげる(変だと感じたら逃げる)
・し…しらせる(先生や保護者に知らせる)
保育園でよくあるヒヤリハット事例【年齢別】
子どもたちの年齢や発達で、保育園でのヒヤリハット事例も変化していきます。
ここからは、年齢ごとに分けてヒヤリハット事例を解説していきます。
乳幼児のヒヤリハット事例
自分の体を思うように動かせない0歳児から、歩行が不安定な1歳児の間は、子どもの行動もねんねからよちよち歩きへ大きく変化するため、成長による行動の変化に注意が必要です。
0歳児は寝具などに口や鼻をふさがれたり、何でも口に入れたりといった危険が予測されます。1歳児になると行動範囲も広がり、転倒やテーブルに頭を打つなどの事故が増えていくでしょう。
2歳児のヒヤリハット事例
2歳児になると手先が器用に動かせるようになり、遊びがより活発になって、危険の範囲も広がっていくことから、滑り台から転落したり、揺れているブランコに頭をぶつけたりといった、遊び中の事故が増えていくことが考えられます。また、好奇心が旺盛になっていく時期のため、小さな小石や豆などを鼻や耳の穴に詰めてしまうといったケースも多く見られます。
3歳児以上のヒヤリハット事例
3歳児以上になると友だちとも遊び始め、高いところへ登ったり、飛び降りたりという大胆な動きが増えて、ケガや事故も増えていく傾向にあります。
友だち同士の噛みつきや引っ掻きなど、けんかによる負傷なども見られるでしょう。急に走り出して転倒したり、高い遊具から飛び降りたりといった、興奮状態で起きる事故も増えていきます。
保育園が行うべきヒヤリハット対策とは
子どもたちの安全を守るには、ヒヤリハット事例や事故原因を知っておくだけでなく、施設ごとの独自の対策も必要になってきます。
ここからは、具体的な対策方法をいくつか解説していくため、活動内容や環境に合わせて実践してみてください。
保育士同士で情報を共有する
保育士同士で情報を共有し、職員全体が施設内外の危険個所や子どもたちの状態を把握するのが重要です。
正規職員だけでなく、パートや非正規職員にも情報が行き渡るよう、注意箇所や改善点は記録を残し、情報を共有しておきましょう。叱責するばかりではなく、話し合いやすい雰囲気を作るのも大切です。
過去に起きた事例を確認する
施設内や施設外外活動中に実際に起きたヒヤリハット事例は報告書に残し、後から確認できるようにしておきましょう。
ヒヤリハット事例を知るだけでなく、施設内で実際に起きた事例集を作成し、危険防止や環境の改善につなげるのが重要です。報告書は職員が見やすい場所に保管し、こまめにチェックできるようにしましょう。
子ども目線になって確認する
大人の基準ではなく、子どもの目線になって危険がないかチェックしていきましょう。
子どもの特性や発達によって、動きや行動範囲も変化していきます。事故につながりかねないおもちゃや場所は、子どもだったらどうするか、どうなるかというパターンを想定しながら、職員間で意見を出し合いましょう。
緊急時の対応方法を確認する
大きな事故やケガが起きてしまったときのために、緊急時の対応方法を職員全員で把握しておきましょう。
内閣府から提示されている「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」には、緊急時の役割分担、119番通報のポイントなどがまとめられています。
施設の環境に合わせて、これらの資料をもとに緊急時マニュアルを作成し、研修や定期訓練をしておきましょう。
保護者との関わりを大切にする
施設内の会議などで話し合うだけでなく、ふだんから保護者と保育園の間で、子どもの状態についての情報を共有しておきましょう。
お互いの情報を共有することで、子どもの異変にも気がつきやすくなります。熱っぽさがあったり、食事がいつもより進まなかったりなど、不安な点をお互いに伝えておくのが大切です。
CCS SENSORで子どもの安全を守ろう
乳幼児の午睡は子どもたちの毎日の生活リズムを整え、すこやかな成長のために欠かせない習慣です。しかし、安全を守るための午睡チェックを欠かさず行うのが難しく、不安が大きいという場合もあるでしょう。
近年では子どもたちの命をより万全に近い状態で守るために、うつぶせ寝や発熱をアラートで知らせる午睡チェックセンサー「CCS SENSOR」の利用が増加しています。
複数園児の午睡チェックの自動記録機能や、記録の手間が省けるチェック表フォーマット、蓄積されたデータから発熱を予測する機能など、作業負担を軽くする豊富な機能が搭載されているのが特徴です。
CCS SENSORと保育士のダブルチェックで、子どもたちの安全をより万全に近い状態で見守りましょう。
まとめ
ここまで、保育園でよくあるヒヤリハット事例と対策について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。子どもはときに予測不能な行動をとる可能性も高く、保育中は冷や汗をかくような瞬間はつきものといえるのかもしれません。
このようなヒヤリハット事例が発生したとき、その場で終わらせず職員間で話し合い、状況の改善に向けて環境を整えていくのが大切です。報告や話し合いがしやすい、風通しのよい職場づくりも重要と言えます。
大きな事故を未然に防ぐため、施設全体で子どもたちの安全を見守っていきましょう。
参考文献
内閣府子ども・子育て本部
「令和元年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について
内閣府
教育・保育施設等における事故防止及び 事故発生時の対応のためのガイドライン