実際の発達経過記録から、子どもの行動の難易度、属性を解明する(後編-2)
4分類と「ホップ」「ジャンプ」
今回も引き続き、期首達成率と成長率に基づく、子どもの行動達成の属性の分類の話しを続けます。期首達成率と成長率の2軸による4分類は、ホップ、ステップ、ジャンプ、アドバンスの4分類になります。
ホップは、期首達成率が高く、成長率も高い行動項目となり、ステップは、期首達成率は低いものの、成長率が高い行動項目となります。このホップとステップが、その年齢の子ども達の発達過程のコアを形成しているものと考えます。
一方、ジャンプは、期首達成率は高いのですが、成長率が伸び悩む行動項目となり、「できる、できない」の個性が出てくる項目となります。また、アドバンスは、期首達成率も低く、成長率も低い項目となります。ジャンプに該当する行動項目については、個性差なので、出来る子どもは更にその点を伸ばしてやる、出来ない子どもにはチャンスは与えるが無理強いしないということになるでしょう。アドバンスについては、そもそも、この分析対象の子どもたちの年齢では難しいということなので、長い目で見ていく行動項目ということになります。
なお、期首達成率については前編、成長率については中編、4分類の詳細については前回の各エントリーにお目通しいただけるとありがたいです。
ステップに含まれる項目
さて、ここからは、4分類された行動項目を具体的に紹介していこうと思います。
最初は、「ステップ」の項目からとなります。「ステップ」は、期首達成率は低いものの、成長率が高い項目と定義され、今回のモデルデータでの計算では、それぞれの中央値75%で高低の線引きをしました。
「ステップ」に含まれる項目として、成長率の高い方から5項目を紹介すると
・「自分の気持ちを言葉にし、保育士や友達と言葉のやり取りを楽しむ」
・「一生懸命自分が持っている身体機能を使って体を動かそうとする」
・「体を十分動かす遊び、遊具・用具を使った遊びを楽しむ」
・「粘土をちぎったり、伸ばしたり丸めたりする」
・「保育士に親しみ、安心感をもち生活する」
といった項目が並びます。身体機能(領域「健康」関連)と周囲とのやり取り(領域「人間関係」関連)の項目が並んできています。前回紹介した「ホップ」では、身体機能に関連する項目が上位に来ていました。やはり、3歳児の子どもたちの身体機能や体を動かそうという意欲が、期首だけではなく、期中にも着実に成長していくことを表しているものと思われます。
逆に中央値以上であるものの、相対的に成長率が低い項目を抜き出すと、
・「友達と簡単なごっこ遊びを楽しむ」
・「丸や四角を描く」
・「自分の使ったものを片付ける」
・「一回できなかった動きを何度も挑戦しできるように頑張ろうとする」
・「排泄の後始末を自分でしようとする」
といった項目が並びます。生活習慣や周囲との関係(領域「健康」や領域「人間関係」関連)の項目が散見されます。これらの周囲との関係や生活形成に関連する「ステップ」項目については、期首段階では多少難しさがあったものの、年間を通じて、期首にできなかった子どもでも、その4分の3以上の子どもで、その発達を見ることができていたことになります。
この「ステップ」に分類される項目は、「ホップ」と並んで、このモデルデータを構成している3歳児の子どもたちの成長、発達の基盤、土台とも言える行動、能力ではないかと思います。期首の状態にかかわらず、できなかった子どもたちの多くが、大きく成長、発達を見せる分野だからです。
これらの項目で「できない」子どもが居た場合には、少し注意し、それら未達成項目に向けたサポートに、保育者、保護者ともに気を配ることが求められるのではないでしょうか。ただ、「ホップ」と異なり、「ステップ」に分類される項目については、少しゆっくり目の対応が適切だと思われます。よって、実際の指導案、保育計画を立てていく場合には、これらの項目がいつ頃達成する子どもが多かったのかという、達成時期の実績を見つつ、当年度の年間計画の中に、それに対する支援をどのように位置づけていくかを検討することも必要だろうと思います。
アドバンスに含まれる項目
では次に、「アドバンス」に分類されていた項目について、具体的に見ていきたいと思います。「アドバンス」は、期首達成率も、成長率も低い項目と定義されます。すなわち、期首達成率、成長率ともに75%未満という項目です。要すれば、このモデルデータの3歳児の集団にとっては、難易度の高かった項目ということになるでしょう。
「アドバンス」に含まれる項目として、成長率の高い方から5項目を紹介すると
・「自分のしたい事、して欲しい事をはっきり言う」
・「4~5人でごっこ遊びが持続できる」
・「手洗い・うがいなどの生活習慣が身につき自分から行おうとする」
・「自分で最初から食べ終わるまでスプーン・フォークを3点持ちで持って食べる」
・「身の回り物の色・数・量・形などに興味を持ち、違いに気付く」
となりました。確かに、3歳児には少し難しいというものが並んでいるように思えます。
さらに、成長率が低い(成長率が40%以下)項目を見ると、
・「職員のお手伝いを喜んでやる」
・「片足ケンケンをして跳ぶ スキップができる でんぐり返しをする」
・「ひも結びができる」
・「大人の回した縄を跳ぶことができる」
・「鉄棒の足掛け尻抜きと前回りができる」
といった項目が並びます。これら、特に成長率の低い項目は、「職員のお手伝いを喜んでやる」を除き、期首達成率も20%を切っており、今回の3歳児には難しかったようです(「職員~」の項目の期首達成率は75%で、場合によっては「ジャンプ」に分類されてもおかしくない数値でした)。
これら「アドバンス」の項目は、項目名の字面からしても難易度の高い印象を与えるものです。とはいえ、このような定量的なデータがなければ、当該項目の行動を達成していないということをどのように評価するのか難しいのではないでしょうか。
実際の達成状況のデータに基づけば、この「アドバンス」の項目は、4歳児以降になって達成していくものであることが、納得感をもって理解したり、説明したりできるのではないでしょうか。
4分類とカリキュラムマネジメント
前回と合わせて、モデルデータの3歳児の発達記録から、行動項目の属性を定量的に示す方法である「4分類」の結果を紹介しました。
勿論、今回の試行は方法論の可能性を探るためのものですし、結果自体は、どのような記録フォーマット(どういう項目について)記録するかによって、異なる結果になります。また、当然、分析対象となる子ども集団が異なれば、別の結果になるでしょう。
つまり、今回の「4分類」という分析手法は、万古普遍(そのようなものがあるのであればですが)の選別基準や、一般論を求めるものではなく、直接関わりのある「目の前」の子ども集団が見せる「特性」として、行動の属性を4分類で示すというものです。
今回の分析は、2020年度期末までのデータに基づいて分析しました。
といっても、年度のデータが揃うまで分析を待つ必要はなく、当然、期中、特に年度後半になれば、その集団のデータに則して、4分類を計算することができるでしょう。
また、年度の前半であれば、同じ施設の同じ年齢クラスの昨年度のデータがまずは参考になるでしょう。保護者からの相談においても、「去年の3歳児クラスでは、こうだったから、それが出来なくても不安になる必要はないですよ」等の応答ができるでしょう。あるいは、この前年度の同年齢クラスの発達実績を、目の前の子どもの集団、子どもの発達過程を観察するための暫定的な土台とし、前年度実績との違い細かく把握することで、印象論ではない「子ども理解」が可能になるでしょう。というのも、環境を一定程度同じくしている集団の実績の方が、一般論(大きな集団の統計的=平均的な傾向)よりも、検討の土台とする価値があるように思えるからです。
また、「ホップ」や「ステップ」のように、当該年齢の子どもの成長、発達のコアと思われるような行動については、その「底上げ」のためのカリキュラムを集団活動に取り入れていくということになるでしょうし、「ジャンプ」のような個性がでるもの、「アドバンス」のように全員が達成する必要を認めがたい行動については、個々の子どもの遊びとして取り組めるような環境構成とそれを許容するカリキュラムを考える必要があるでしょう。
倉橋惣三の保育過程論である「系統的保育案」では、保育者が構成する保育として、「誘導」と「課程」があり、それと密接に関係するように自由遊戯と生活訓練が配置されるというものとなっています。
このような倉橋の「保育の4分類」と今回の4分類は、当然1対1で対応するようなものではないでしょう。しかし、達成させてあげたい行動項目の属性に応じたサポートのための「保育」が、倉橋の自由遊戯-誘導保育-課程保育―生活訓練のグラデーションの中のどこと整合的かを検討し、それを踏まえて、どのような環境構成と関わりを構想し、実施していくのかという形で、カリキュラムマネジメントを進めることができるようになるのではないでしょうか。
勿論、この倉橋の「保育」の構造は、一つの見解であり、他の保育の構造に則して、カリキュラムを構想していく場合でも、行動属性の4分類の結果を見ていけば、「目の前の子ども集団」の持っている「特性」に基づいて、各種の指導計画や環境構成、カリキュラムマネジメントを構想できるのではないでしょうか。
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