実際の発達経過記録から、子どもの行動の難易度、属性を解明する(中編)

期首達成率と成長率による「4分類」

前回のエントリーでは、モデルデータで「目の前の子どもの発達記録」を分析するということで、期首(年度初めの4月)段階で、記録を取っている行動項目の達成度合としての「期首達成率」の状況を紹介し、具体的に期首達成率の「高い」項目と「低い」項目を具体的に見てみました。

この期首達成率と合わせて分析する第2軸としての「成長率」の状況を紹介しようと思います。

ここで、4分類を計算するための二軸として、期首達成率とともに、期末達成率(年度の最終段階、3月時点で「できる」と記録されている率)ではなく、この成長率を採用しています。この理由ですが、期末達成率は期首出生率から独立した指標ではないかからです。つまり、期首達成率と期末達成率の関係では、期首達成率が期末達成率の下限を決めてしまいます。さらに、期末達成率には、100%という上限が存在します。となると、期首達成率が9割を超えるような項目については、期末達成率の変動幅は非常に狭いものとなってしまいます。変動範囲が狭いと、項目ごとの属性を確認することが難しくなります。このため、期首達成率と独立した性質を持つ成長率を使っているのです。

 

そして、この2軸の高低によって、記録されている行動項目の属性として4つに分類できると思います。ちなみに、後ほど説明しますが、4分類は「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」「アドバンス」のように名付けています。

 

成長率

期首時点での達成状況は、先のような分布状況になっている訳ですが、では、期首の出来ていなかった行動項目の達成は、どうなっていくのでしょうか。これを計算するのが、「成長率」です。成長率は、4月段階で出来ていなかった子どもの中で、最新時点において、その行動項目に「できる」が記録されるようになった割合となります。

行動項目88項目の分布をヒストグラムにすると、次のようになります。成長率の平均は約70%ですが、成長率の中央値は75%でした。

 

 

この分布の状況をみると、期首達成率と同様に、全体的に成長度合が「高い」方に、分布されているという様子です。同時に、低い成長率の裾野も広い(いわば、ロングテールな分布)分布になっており、成長率の低い項目も「薄く広く」存在しているということになります。また、特徴的なのは、95%以上の成長率を見せた項目が、最も多いということです。今回のデータでは、最初からできている行動もさることながら、一年間の成長幅が大きく、全員が達成してくれた項目も多かったということになります。
達成状況の分布は、記録している項目の設計(比較的難易度の低い項目が多いということになるでしょうか)にも依存しますし、当然、子どもたちの特性にもよるので、こういう分布になること自体に、「是非を問う」ということではないでしょう。

 

4月に未達成の項目のうち、「何ができるようになるか」の実例

成長率100%の項目、つまり、期首段階でできなかった子どもが全員できるようになる行動項目としては「体を十分動かす遊び、遊具・用具を使った遊びを楽しむ」「足を交互に出して階段の昇り降りをする」「50cm位の高さから飛び降りようとする」など、14項目がありました。中央値75%より高い行動項目としては、41項目ありました。

逆に、成長率0%、つまり、期首にできなかった子ども全員が、期末にも結局できるようにならなかった項目も一つだけあり、「楽しく食事をする」がありましたが、これはかなり特殊な事例かと思います(期首にできなかった一人が、結局、最後まで給食になじめなかったという、かなり特殊な例かと思われます)。

成長率が10%前後以下の行動項目としては、「鉄棒の足掛け尻抜きと前回りができる」「大人の回した縄を跳ぶことができる」「ひも結びができる」といった3項目があります。また、2割から5割程度の子どもしか達成できない項目も、「利き腕を使い、ボールを投げたりワンバンドのボールを受けられる」「グーパー跳び、ケンパー跳びをする、ギャロップができる」「自分より低年齢の友だちとも仲良く遊ぶ」など、15項目ありました。結局、期末までに達成できない子どもが相当数残る行動項目も一定数存在するということです。

これら、中央値75%以下の項目としては、47項目ありました。

 

4分類と2軸の関係

前回のエントリーで紹介した「期首達成率」と、今回のエントリーで紹介した「成長率」の高低で、発達記録で達成時期を記録している項目の属性を4分類することができるようになります。

冒頭で述べましたように、この4分類と、期首達成率/成長率の高低の関係を表にすると、次のようになります。

次回のエントリーで、この4つの分類に具体的にどのような項目が含まれるのか、そして、この4分類に基づくと、「今、ある行動ができない」ということをどのように評価できるのか、子どもの発達をサポートしていくという面で、この情報をどのように活用できるかといったことの一つのイメージについて説明できればと思います。

<関連エントリー>

実際の発達経過記録から、子どもの行動の難易度、属性を解明する(前編)

実際の発達経過記録から、子どもの行動の難易度、属性を解明する(後編-1)

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