子どもの発達の相互連関=相関関係を見る!!

発達の相互連関を捉える!

「子ども(たち)の発達過程」を、発達経過記録から定量的、統計的に、くみ取り、可視化するための研究を進めています。このための作業をしていく過程では、逐次、保育所保育指針における、発達の捉え方に立ち戻るようにしています。
保育所保育指針の第1章「保育所保育に関する基本原則」(2)保育の目標では、「ウ 子どもの発達について理解し、一人一人の発達課程に応じて保育すること。その際、子どもの個人差に十分配慮すること。」とされています。さらに、当該箇所について保育所保育指針解説では、次のように説明されています。
『発達には、ある程度一定の順序性や方向性がある。また、身体・運動・情緒・認知・社会性など様々な側面が、相互に関連しながら総合的に発達していくものである。』
この発達の「相互連関性」については、相談させていただいている専門の研究者の方からも、指摘を受ける点です。
とはいえ、「相互連関性」を具体的に把握しようとすると、様々な考え方があり一筋縄では行きませんし、現時点では、万古普遍の計測方法というものも難しいと思われます。
今回は、一つの試みとして、発達の発現時期、スピードの相関(係数)を計測してみることとし、その結果から見えてくるものを簡単にご紹介しようと思います。

相関係数とは?

相関係数というのは、2つの変数が似たよう動きをするかどうかを表す指標で、-1から1の間を取るということは、ご案内の通りです。例えば、1に非常に近い、相関係数0.98の2つの変数を散布図にすると、このようになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

一般的に中程度の相関(連動して動く度合)としては、0.7~0.4程度とされますが、例えば相関係数0.69の2つの変数を散布図にすると、このようになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の「とても強い正の相関」の散布図は、はっきりと右肩上がりの関係が視認できますが、下の「中程度の正の相関」ですと、なんとなく関係はあるかなという感じにはなってしまいます。これでも、それなりに2つの変数が連動して動いていることになります。

今回の試行での「変数」は、発達経過記録で記録を取っている行動や機能が、何時できるようになったかということに設定しています。上の散布図でいうと、横軸はある行動の達成時期、縦軸は別の行動の達成時期を表し、各点は、個々の子どもの達成時期の組合せを表します。この前提であると、ある行動の達成時期と別の達成時期の相関係数が高いということは、子どもの間で、達成時期の差はあっても、その子どもでは、その2つの行動は同じような時期に達成されているということを意味しています。つまり、子ども一人ひとりでみたときに、2つの行動の間に、同時期に達成(発現)されるという「相互連関性」を見いだすことができると解釈することができると思っています。

相関係数のヒストグラム(度数分布)

今回の試行では、3歳児、4歳児、5歳児の発達経過記録から、相関係数を計算しました。発達記録の項目数は、3歳が84項目、4歳が59項目、5歳は54項目となり、組合せの数としては、3歳児で3500あまり、4歳児で1700あまり、5歳児で1400あまりの組合せ数となります。

相関係数は、-1から1の間の少数で表現されますが、経験的、一般的な目安として、0.9以上は非常に強い連動性、0.7以上0.9未満を強い連動性、0.4以上0.7未満を中程度の連動性、0.2以上0.4未満を弱い連動性、0.0以上0.2未満を極わずかの連動性、-0.2以上0.0未満を極わずかの負の(逆方向の)連動性と評価されます(0の場合は、全く関連性がないとなります)。この区分に該当する組合せの数をヒストグラムにしたものが、次の棒グラフです。

このグラフから分かるように、年齢を問わず、行動や機能の連関性は、「中程度の相関」「弱い相関」が太宗を占めるという結果です。子どもの個々の行動の発現や機能の達成の時間やスピードには、それなりの相関はありますが、それは緩やかなものであるということになります。ということは、ある能力や行動が発現したら、そこから「しばらくすると出来るようになるか?」と思える組合せと、そうではない能力や行動の組合せを識別することは出来そうな感じです。

相関の強い「行動、能力の組合せ」

上のヒストグラムでははっきりしませんが、強い相関を見せる組合せも存在しています。3歳児では13、4歳児では17、5歳児では14です。これらの「強い相関」にある行動や能力とは、それぞれの子どもの成長の流れの中で、同じようなタイミングで発現、達成することが多い組合せです。

強い相関を見せる組合せは、やはり連続的に達成、発現するだろうという組合せが並びます。例えば、3歳児では「身の回りの様々な物の音、色、形、手触り、動き等に気付く」と「様々な物の音、色、手触り、動き等に気付き、驚いたり感動したりする」に強い相関があります。

しかし、直観的には「あれ?」と思わせる組合せもありました。例えば、同じ3歳児の強い相関のある組合せの中では、「絵本などイメージを持って楽しんで聞く」と「身の回りの出来事に関する話に興味を持つ」の間に強い相関が見られました。これは、今回の3歳児のデータでは、イマジネーションを持つことと、現実世界を認識することとの間に、相互連関性があることを示していると解釈出来るのかも知れません。

4歳児では、「接続詞『えーっと』等を使い、話を展開する」と「自分で鼻をかんだり、顔や手を洗う等、清潔にする」の間に強い相関が見られました。物事の前後関係を自分の中で整理できることと、身の回りを清潔にするということとの間に、相互連関性があるということなのでしょうか。

5歳児では、「自分から遊びを展開、発展させることができる」と「友だちや小さな子が困っていると助けようとする」、「様々な素材や用具を適切に使い、創造的に描いたり、作ったりする」との間に、強い相関が見られました。遊びの中での自発性と、いたわりの心や創造性との間に相互連関性があるということになります。

強い相関を見せる「行動、能力の組合せ」を列挙していくとキリがありませんが、発達経過記録をそのまま眺めているだけでは見出せない、発達の相互連関を色々と発見できそうです。

まとめ

今回の試行では、子どもの様々な機能、行動の発達発現の間の連関性の多くは、中程度の相関関係ということになっていました。子どもの発達には、個性があるため、相互連関をマスデータから簡単に抽出するのは難しいようです。ただ、その中でも、強い相関を見せる「意外な組合せ」も発見することができました。

勿論、今回のデータは、あくまで入手できたデータに基づいていますので、日本全体の子どもを代表できるというものではなく、「今、目の前のいる子どもたち」のものだという制約があります。ただ、その限りでは、一定のインサイトをもたらしてくれるでしょうし、むしろ、安易に「平均的な発達の連関性」像を求めるのではなく、現前の子どもたちを虚心に捉えることに重きを置くべきということなのでしょう。

さらに、発達記録のデータから、類似した発達過程を見せる子どものグループを抽出することも出来ますので、むしろ今後は、より精細、緻密にデータを精査し、類似性の高い子どもたちの発達過程の中での「発達の相互連関」を見いだす作業を進めていこうと思っています。