保育観の違いを乗り越えるマネジメントとは?

看護師という立場から保育の人材育成をする難しさ

開園から一番苦労している事は人材育成だと振り返ります。

 

「保育園運営を始めたころ職員との個人面談を何度も行いましたが、始めは職員の要望を聞く事に必死で、大変でした(笑)。園長という立場上、何かアドバイスをする事で、職員にプレッシャーを与えてしまうと思いましたし、看護師だから保育のことは分からないでしょ?という反応もありました。また、何か問題があっても職員からは後ろ向きな意見が多かったです。もっと現場から建設的で前向きな意見を言ってもらえるようにしたいと感じていました。」

 

人材育成の難しさは多くの保育施設で抱えられている悩みです。開園当初のひかりテラス保育園では集まった保育者の経験や考えがそれぞれ違うため、なかなか同じ方向を向いて保育ができないことに課題を感じていたそうです。

 

理念を振り返る人事評価を導入

有賀さんは開園から一年をかけて個人面談を何度も重ねて徐々に保育の足並みを揃えていったそうですが、特に「人事評価制度」や「役職の辞令交付(処遇改善加算Ⅱ)」をうまく活用できたことで徐々に職員の考え方に変化が出てきたと言います。

 

「働いている職員全員が違った保育観を持っていますが、自分の保育が当園の保育理念や保育方針に添っているかを振り返るために人事評価を取り入れました。
具体的には、保育方針を理解した行動が取れているか?や、安全に保育ができているのか?等の細かい指標で自己評価してもらいますが、一人ひとりがやりたいことが園の理念や方針と合致しているかを立ち戻って考える機会となっています。人事評価を基準にしたことで自分を内省する機会が作れ、なにより自分はどこまで出来ているのかを意識することで、足りない部分を補ったり良い部分を伸ばしたりすることができるようになったと思います。
また、職員はそれぞれやりたい保育が違いますが、本当にこれで良いのかなと思いながら保育をしている人がほとんどです。保育に正解はないので当園らしい保育ができているかをきちんと自分で振り返る機会を作ったことで、これでいいのだと自信をもってやれるようになってきたと感じます。」と現場の先生の変化を笑顔で語ります。

 

処遇改善加算Ⅱで高まった職員のモチベーション

また、マネジメントが機能し始めたと感じたのが“役職の辞令交付(処遇改善加算Ⅱ)”だと言います。

 

「処遇改善加算Ⅱを取り入れ、役職を付ける事で職務内容の明確化をし、職員が自立するシステムにしました。役職に応じて手当に反映する事から、職員のモチベーションも上がります。また、研修に参加する必要もあるため、外部研修で吸収してきた事を園のために役立ててもらっています。当園は私立園という事もあり、人事異動もないため、メンバーが大きく変わる事はありません。様々な視点から良い刺激を与え合いながら、職員の育成になればと思っています。」

 

“役職の辞令交付”というしっかりと形で、職員に職務内容を明確に伝えた結果、程よいプレッシャーになり、それぞれの分野の専門性を高め、責任感が生まれたそう。そして、困ったことが起きたときに、どの人に相談すればいいのかがわかるようになったことも、この制度を取り入れたメリットと語ります。

 

保育カンファレンスで保育の方向性を合わせる

さらに、保育の方向性を合わせるために人事評価以外に取り組んでいることを伺うと、有賀さんは「保育カンファレンスです」と答えました。

 

具体的にひかりテラス保育園ではどのようにカンファレンスを行っているのか伺うと、
「職員全員が子どもに統一した関わり方ができるようにするということをゴールに『その子の育みたい姿』を明確にすることから始めます。子どものどの部分を伸ばしたいのか、こんなふうに育ってほしいという目標が共有された後は、子どもの発達段階を5領域(「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」)で整理します。職員同士で、外遊びのときはどうだったとか、こういう体調の変化が起きやすいとか、しっかりと意見を出し合うのです。このとき、愛着形成はどうか、どこまで出来ていてどこでつまずいているのか、保護者の気持ちはどうなのか、といった視点で話しあって、関わり方を検討します。」
と進め方のポイントを説明してくださいました。園児一人ひとりと保護者に寄り添った保育の実現にむけ取り組んでいる様子がうかがえます。

 

意見を言い合える環境をつくる

個人面談や人事評価制度の活用、役割の明確化、さらに定期的な保育カンファレンスの実施を行い、ようやく人材育成の体制の基盤ができてきたひかりテラス保育園ですが、これらを重ねていく中でもう一つ、職員に変化があったそうです。

 

「意見を言う機会が増えたことによって、ロジカルに話せる職員が増えてきたなと思います。もちろん個人差はありますが(笑)。以前は、自分の感情を中心にした意見が多かったですが、今はなぜそう思うのか、どうしてそうしたいのか、誰のための提案なのかを話してもらえるようになってきました。」と言います。さらに
「看護の世界では、患者さんに理解してもらわないと治療やケアができないので、とことん説明するのが当たり前であり、どうしてそう思うのかをよく聞くようにしていました。わたしも職員にも保護者にも理解してもらえるまで話しますし、話しやすい環境をつくることも大切にしたいです。」と環境作りのこだわりも教えてくれました。

 

子育て世帯のための独自的な取り組み「手ぶら保育」

なぜやるか?を理解できれば、保育はもっと楽しくなる

これまで、ひかりテラス保育園の開園の経緯や人材育成の取り組みを紹介してきました。ここでひかりテラス保育園の独自の取り組みについて紹介します。

 

「やわらかな子育て」を目指して独自に取り組んでいるのが「手ぶら保育サービス」です。最近ではオムツの定額サービス を提供する企業もありますが、保護者にオムツの準備や汚れたオムツの廃棄をお願いしている保育園は多いものです。
ひかりテラス保育園ではオムツの定額利用サービスはもちろん、子どもたちの使うエプロンや口拭きタオル、さらに外遊びで汚れた洋服の洗濯を代行するサービスも行っています。毎日洗濯する職員の方たちは大変ではないですか?と有賀さんに聞くと「大変です!」と苦笑いしつつも、

 

「手ぶら保育サービスは保護者の方の家事が軽減し、お子さんと一緒に過ごす時間が増えれば良いなと思って開園当初から行っています。もちろん職員は大変です。しかし当園の職員は、保護者がやらなければならない家事の時間が減って、子どもと笑顔で過ごす時間が増えてほしいという想いで手ぶら保育に賛同してくれています。本当にありがたいです。」と、職員の方への感謝の言葉を述べられました。

 

「手ぶら保育は職員の負担も大きいですが、これをやることの意味に職員が共感してくれているから続けていけるんだと思います。なぜやるのか、誰のためにやるのか?という裏付けをしっかり理解できれば保育はもっと楽しいものになると思います。」

 

保育園を中心に、みんなで子育てする社会へ

最後に有賀さんに今後の展望を伺うと、
「夢は変わらず世代間交流の出来る場を作ることですが、今は子育て支援センターもつくっていきたいと考えています。子育て世帯の悩みは産前産後から始まっています。産前産後の悩みを相談したり、少しの間、子どもを預けてゆっくりお茶をしたりできるような子育て支援センターを作りたいです。ほかにも発達の支援が必要な子のための療育支援などもやっていきたいです!また、気分転換できるカフェも併設し、憩いの場所にしていきたい!ひかりテラス保育園を中心に無理のない子育てを実現できる社会を作っていきたいなと思います」と笑顔で語りました。