保育の5領域とは

2018年に「保育所保育指針」と「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」が改定されました。就学前児童が幼稚園、保育園、認定こども園のどこに通っていても同じ水準の保育や教育の機会を得られるようにすることが大きな目的です。

新たな保育所保育指針では、保育や幼児教育の質を保ちながら、小学校進学を見据え、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の目標を指示しています。

「保育の5領域」とは、その目標とする姿を具体的にするために「保育のねらい」を5つの領域に分けたものです。「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」に分類されています。

健康健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う。
人間関係他の人々と親しみ、支えあって生活するために自立心を育て人と関わる力を養う。
環境周囲のさまざまな環境に好奇心や探求心をもって関わり、それを生活にとり入れていこうとする力を養う。
言葉周囲のさまざまな環境に好奇心や探求心をもって関わり、それを生活にとり入れていこうとする力を養う。
表現感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通じて、豊かな感性や表現する力を養い、創造力を豊かにする。

※引用元:厚生労働省「保育所保育指針解説」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202211.pdf

指導案は上記に基づいた作成が求められますが、1歳以上3歳未満児と3歳以上児はとくに5領域を重視した「保育の目標」が求められます。その内容は以下の通りです。

健康
ねらい
  • 明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう
  • 自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする
  • 健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付ける
内容
  • 先生や友達と触れ合い、安定感をもって行動する。一緒に食べることを楽しむ
  • いろいろな遊びの中で進んで戸外に出て、十分に体を動かす
  • さまざまな活動に親しみ、楽しんで取り組む
  • 健康な生活のリズムを身に付ける
  • 身の回りを清潔にし、衣服の着脱や食事、排泄などの生活に必要な活動を自分でする
  • 自分の健康に関心を持ち、病気の予防などに必要な活動を進んで行う
  • 危険な場所や危険な遊び方、災害時などの行動の仕方がわかり、安全に気を付けて行動する
人間関係
ねらい
  • 園での生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう
  • 身近な人と親しみ、かかわりを深め、愛情や信頼感をもつ
  • 社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける
内容
  • 先生や友達と共に過ごすことの喜びを味わう
  • 自分で考え、自分で行動する。自分でできることは自分でする
  • いろいろな遊びを楽しみながら物事をやり遂げようとする気持ちをもつ。
  • 友達と積極的にかかわりながら関係を深め、喜びや悲しみを共感し合い、思いやりを持つ
  • 自分の思ったことを相手に伝え、相手の思っていることに気付く
  • 友達のよさに気付き、一緒に活動する楽しさを味わう。友達と共通の目的を見出して工夫したり協力したりする
  • 良いことや悪いことがあることに、決まりの大切さに気付き、考えながら行動する
  • 高齢者をはじめ地域の人々など、自分の生活に関係の深いいろいろな人に親しみをもつ
環境
ねらい
  • 身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中でさまざまな事象に興味や関心を持つ
  • 身近な環境に自分から関わって発見を楽しんだり考えたりし、それを生活に取り入れようとする
  • 身近な事象を見たり考えたり扱ったりする中で、物の性質や数量、文字などに対する感覚を豊かにする
内容
  • 自然に触れて生活し、その大きさや美しさ、不思議さなどに気付いて関心を持つ。取り入れて遊ぶ
  • 生活の中でさまざまな物に触れ、その性質や仕組みに興味や関心をもつ。
  • 季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く
  • 身近な動植物に親しみをもって接し、生命の尊さに気付き、いたわったり大切にしたりする
  • 身近な物や遊具に興味を持ち、考えたり試したりして工夫して遊ぶ。
  • 日常生活の中で数量や図形、簡単な標識や文字などに関心を持つ
言葉
ねらい
  • 自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう
  • 人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう
  • 日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、先生や友達と心を通わせる
内容
  • 先生や友達の言葉や話に興味や関心をもち、親しみをもって聞いたり話したりする
  • 自分の考えたことや感じたこと、欲求を言葉で表現する
  • 人の話を注意して聞き、相手に分かるように話す
  • 親しみをもって日常のあいさつをする
  • 絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞き、想像をする楽しさを味わう
表現
ねらい
  • いろいろなものの美しさなどに対する豊かな感性をもつ
  • 感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ
  • 生活の中でイメージを豊かにし、様々な表現を楽しむ
内容
  • 生活の中で様々な音、色、形、手触り、動きなどに気付いたり、感じたりするなどして楽しむ
  • 生活の中で美しいものや心を動かす出来事に触れ、イメージを豊かにする
  • さまざまな出来事の中で、感動したことを伝え合う楽しさを味わう
  • 感じたこと、考えたことを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり作ったりする
  • いろいろな素材に親しみ、工夫して遊ぶ
  • 自分のイメージを動きや言葉などで表現したり、演じて遊んだりするなどの楽しさを味わう

混同されやすい「3つの柱」「10の姿」との関係~小学校との連携を目指して~

「保育の5領域」と混同されやすいのが、保育所保育指針の掲げる「3つの柱」と「10の姿」です。3つの関係性を詳しくみていきましょう。

「3つの柱」は5領域や10の姿の基礎になるもの

「3つの柱」とは、保育所保育指針で示している3つの「育みたい能力・資質」を指しています。5領域や10の姿の大元となる目標です。

  • 知識及び技能の基礎
  • 思考力、判断力、表現力等の基礎
  • 学びに向かう力、人間性等

この3つの項目は、子どもたちが生涯を通して必要になる生きる力であり、保育園の幼少期から就学後の小中学校が連携して培うものです。小中高校の「学習指導要領」もこの3つの柱を基本として、ほとんど言葉も変わらず記載されています。

5つの領域は3つの柱の基礎にして、より具体的に分かりやすく解説したものと考えましょう。

「5つの領域」は3つの柱を育む具体策

保育の「5領域」は、乳幼児期に3つの柱となる力を育てる方法を5つの分野に分けたものです。それぞれの領域の活動は、最終的に3つの柱につながっています。

「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5つの分野の活動をバランスよく子どもたちに経験させることが大切です。

保育所保育指針には、乳児保育、1歳以上3歳未満児の保育、3歳以上児の保育の年代ごとに「ねらい」と「内容」が詳しく記されています。「ねらい」は心情・意欲・態度を育むことを目的とし、「内容」は保育士が指導するべき項目となっています。

3つの柱に向かうことを意識しながら、年齢に合った指導案や環境づくりを心掛けましょう。

「10の姿」は5領域を育んだ後の目標となる姿

「10の姿」は幼児期の終わりまでに育ってほしい姿の具体例となり、今後育む方向性の目安となるものです。小学校教育と連携を図るために、援助の方向性を共有するために用意されました。

<10の姿の視点>

  1. 健康な心と身体
  2. 自立心
  3. 協同性
  4. 道徳性・規範意識の芽生え
  5. 社会生活との関わり
  6. 思考力の芽生え
  7. 自然との関わり・生命尊重
  8. 数量・図形、文字などへの関心・感覚
  9. 言葉による伝えあい
  10. 豊かな感性と表現

「3つの柱」「10の姿」についての解説図

※引用元:https://hoiku-shigoto.com/report/archives/23360/#310

保育の5領域は難しくない!日常における実践例を紹介!

詳しく知ってしまうと、ますます難しく思える5領域ですが、実は日常の活動にもしっかりと含まれています。実践例を見てみましょう。

健康領域になる保育

  • 投げる、拾うなど身体的技術を育む遊び
  • 着替えやトイレトレーニングなど清潔を維持する習慣
  • 食事の意味や作り方を知る食育
  • 安全を教える散歩指導や避難訓練

人間関係領域になる保育

  • 乳児に信頼と愛着が芽生える関わり方をする
  • 1~2歳児は子供の気持ちの代弁や言葉の補いでサポートする
  • 3~5歳児は年長児の力を借りる子供主体の関係性を重視したサポートをする

環境領域になる保育

  • 保育士自身が自然と触れ合う姿をみせて、子どもたちのロールモデルとなる
  • 子どもと一緒に自然を感じながら面白さや美しさを伝える
  • 子どもたちが感じ取った自然の姿を共感し、意味が見いだせるようサポートしていく

言葉領域になる保育

  • 子どもの感情や思っていることを代弁し、分かってもらえる安心感を与える
  • 保育士が自分の気持ちを率先して言語化し、子どもが気持ちを表現する学びの機会を与える
  • 言葉の言い間違いは直し、正しい発音を伝える

表現領域になる保育

  • 心の情景や感情、感動を造形遊びで表現できるよう援助する
  • 造形遊びに積極的ではない子どもには、原因を解明しながら個人に合わせた支援をおこなう
  • 造形活動を通じて、造形をする過程を子どもの視点に立って楽しむ。

保育指導案は園の「めざす子ども像」でより具体的になる

保育所保育指針の「5領域」や「10の姿」は、国が幼稚園や保育所のためにガイドラインとして示しているもので、目安にすぎません。

実際に保育指導案やねらいを策定する際には、地域性や園の特色を踏まえた「目指す子ども像」を考慮して工夫することで、より現実的で実状に沿ったものになります。

保育指針にとらわれすぎず、目の前の子どもたちを見つめて作成することが大切です。

まとめ

「保育の5領域」とは、「保育のねらい」を健康・人間関係・環境・言葉・表現の5つの領域に分けたものです。保育指導案はこれをもとに作成されます。

「3つの柱」や「10の姿」などと混同されやすいものですが、3つの柱は「育みたい能力・資質」のことであり、10の姿は「幼児期の終わりまでに育ってほしい具体的な姿」を指しています。「3つの柱」を実現する具体策として「5領域」があり、目指す姿が「10の姿」と覚えましょう。

そして、保育所保育指針はあくまで目安や指針であり、必ずそうしなければならないものではありません。子供たちにバランスよく5つの領域を経験させること、園の実情にあった施策を立てることが何よりも大切です。