保育所保育指針の改定に伴って施行された「10の姿」は、すべての幼児教育施設における共通指針とされていますが、具体的にはどのような姿を指すのでしょうか?

 

また「保育の5領域」とはどう違うのでしょう?

 

今回は保育における「10の姿」について、5領域との違いや具体例、取り入れる際に意識すべきことなどを解説します。

1.10の姿とは?

10の姿とは「幼児期の終わりまでに育ってほしい資質や能力」の総称で、現在の保育園・幼稚園・認定こども園における幼児教育の共通指針となっています。

 

10の姿の特徴は、従来の5領域の考え方を引き継ぎつつ、小学校就学に備えて幼児期の終わりまでに育ってほしい姿の方向性を具体的に示していることです。

 

2018年に、幼稚園教育要領(文部科学省)、保育所保育指針(厚生労働省)及び幼保連携型認定こども園教育・保育要領(内閣府)の改訂に伴って新たに作られました。

保育5領域との違いは?

保育5領域とは、保育所保育指針に書かれている保育に関わる「ねらい」のことです。

 

保育所保育指針の第2章保育の内容の「ねらい及び内容」に、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」が具体的に記載されています。

 

「ねらい」は、心情・意欲・態度を育むことを目的としています。「内容」はねらいに沿って、保育士が子どもに対して援助することが記載されています。

 

保育5領域は、各年齢で援助する項目が記載されており、10の姿は5領域も踏まえて子どもが小学校に就学するまでに育ってほしい姿について記載されている内容です。

 

 

保育所保育指針とは?重要なポイントから5つの改定点まで解説!

 

2.「10の姿」の10個の視点と具体例

文部科学省は、幼稚園を卒園までに育みたい「10の姿」を5領域をもとに具体化した10個の視点で示しています。

 

※文部科学省「幼児期の終わりまでに育ってほしい幼児の具体的な姿(参考例)」より抜粋

 

① 健康な心と体

目的は、「体を動かす様々な活動に目標をもって挑戦したり、困難なことにつまずいても気持ちを切り替えて乗り越えようとしたりして、主体的に取り組む」、「衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動の必要性に気付き、自分でする」となります。

 

この目的に対する事例は、「子どもが安定感や解放感をもてるように、環境を通じて関わり、行動できるようにすること」、「体を使って活動をする中で、目標をもったり、自分なりに行動できたりするようになること」、「衣服の着脱や食事、排泄などの生活に必要な活動が分かるようになり、自主的にするようになること」などが挙げられます。

 

子どもが健康的な体と心を持った生活を過ごせるようにするために、保育士は、環境を通して子どもが少しずつできるように援助をすることが大切です。

② 自立心

目的は、「生活の流れを予測したり、周りの状況を感じたりして、自分でしなければならないことを自覚して行う」、「いろいろな活動や遊びにおいて自分の力で最後までやり遂げ、満足感や達成感をもつ」となります。

 

この目的に対する事例は、「自分でできることを考えることや、自分でやらなければならないことを自覚する」、「自分でできないことを工夫してできるようになる」、「難しいことでも自分で工夫して挑戦し、満足感を味わう」などが挙げられます。

 

保育士は、子どもの自立心が育つために、できないことでも自分でやってみることで、達成感や満足感を味わえる援助をすることが大切です。

 

そのためには、自分で考えられる時間や環境を用意することや、子どもがやりたいことができるように環境を整えることが必要でしょう。

③ 協同性

目的は、「相手に分かるように伝えたり、相手の気持ちを察して自分の思いの出し方を考えたり、我慢したり、気持ちを切り替えたりしながら、わかり合う」、「クラスの様々な仲間とかかわりを通じて互いのよさをわかり合い、楽しみながら一緒に遊びを進めていく」です。

 

この目的に対する事例は、「友達の気持ちを理解したり共感したりすることで関わりを深める」、「お互いの思いを受け入れ、どうすれば良いか考えながら一緒に活動ができるようになる」、「一緒に活動する中で、お互いの良さを認め合う」などが挙げられます。

 

協同性とは、子どもたちが共通の目的を達成・実現するために、協力したり工夫したりすることで育ちます。

 

保育士は、子どもたちにお互いの思いが伝わるように援助をしたり、間に入り落ち着いて活動ができるようにしたりするように関わることが大切です。

④ 道徳性・規範意識の芽生え

目的は、「相手も自分も気持ちよく過ごすために、してよいことと悪いこととの区別などを考えて行動する」、「みんなで使うものに愛着をもち、大事に扱う」、「友達と折り合いをつけ、自分の気持ちを調整する」です。

 

この目的に対する事例は、「して良いことや悪いことが分かり、どのように行動すれば良いか意識する」、「友達の気持ちを理解し、相手の気持ちを大切にしながら行動すること」、「遊びや生活には決まりがあることを知り、ルールを守りながら工夫しながら過ごす」などがあります。

 

子どもは、自分がやりたいという気持ちを抑えきれず行動することがあります。その結果、ルールを守れなかったり、友達とトラブルになったりすることもあります。

 

保育士は、子どもの気持ちを受け止めたり、その行動をするとどうなるのかを考えられるように援助したりすることが必要です。

 

子どもは、友達と思いのぶつかり合いがある中で、保育士に自分の気持ちを受け止めてもらったことで、決まりや友達との関わり方に気付くでしょう。

 

その経験を繰り返すことで、子どもは保育士が関わらなくても、子ども同士でどうしたら良いか考えることができるようになるでしょう。

⑤ いろいろな人との関わり(社会生活)

目的は、「小学生・中学生、地域の様々な人々に、自分からも親しみの気持ちをもって接する」、「関係の深い人々との触れ合いの中で、自分が役に立つ喜びを感じる」です。

 

この目的に対する事例は、「小学生・中学生、地域の人々と触れ合うことで、自分からもいろいろな人と関われるようになる」、「季節ごとにある地域の行事や活動に参加することで、地域の伝統や文化を知り、自分が住む地域に親しみをもつ」が挙げられます。

 

その他にも「地域の施設や店舗に訪れることで、自分たちがどのように生活できているのかを知り、地域と関われるようになる」もあります。

 

保育園や幼稚園では子どもたちが育つために必要な環境を整えていますが、保育士や友達以外との関わりを作るのは施設内だけでは難しいでしょう。

 

そこで、保育園以外の施設の行事に参加したり、保育園の行事に地域の人たちが参加したりすることで、子どもたちはいろいろな人たちとの関わることができます。

 

地域の人たちと触れ合うことで、保育園以外のルールやマナーを覚えることができるようになるでしょう。

 

そのためには、保育士は子どもたちが地域の人たちと触れ合うことができるように、地域の人たちとの関わりを大切にしていくことが必要です。

⑥ 思考力の芽生え

目的は、「物との多様なかかわりとの中で、物の性質や仕組みについて考えたり、気付いたりする」、「 身近な物や用具などの特性や仕組みを生かしたり、いろいろな予想をしたりし、楽しみながら工夫して使う」です。

 

この目的に対する事例は、「身近な環境に関わり、発見することや変化に気付き、それを違う場面でも使えるようになる」、「植物を育てたり、工作したりする中で、気付いた不思議に思ったことに対し、それを探求するようになる」が挙げられます。

 

その他にも「友達の考えに触れ、自分はどうするか考え行動するようになる」のように、友達との関わりで考えたり気付きがあったりして、自分なりにやってみようとすることもあるでしょう。

 

子どもにとっての思考力の芽生えは、生活や遊びの中で興味をもったことに対して、探究することで育っていきます。

 

保育士は、子どもたちが興味をもち、探究できるように環境を作ることが大切です。答えをすぐに教えるのではなく、子どもたちが考え、自分なりの答えを引き出せるように援助することが大切でしょう。

⑦ 自然との関わり・生命尊重・公共心

目的は、「自然に出会い感動する体験を通じて、自然の大きさや不思議さを感じ、畏敬の念をもつ」、「公共の施設を訪問したり、利用したりして、自分にとって関係の深い場であることが分かる」が挙げられます。

 

その他に、「身近な動物の世話や植物の栽培を通じて、生きているものへの愛着を感じ、生命の営みの不思議さ、生命の尊さに気付き感動したり、いたわったり大切にしたりする」も挙げられます。

 

この目的に対する事例は、「植物を育てたり見つけたりする中で、感動する体験や好奇心や探究心をもつようになる」、「雨や雪などの天候や木や虫など自然の環境を取り入れた遊びを通して、自然に対する関心が高まる」などが挙げられます。

 

また、「生き物や植物を育てる中で、命があることに気付き、生命の大切さを知るようになる」も該当するでしょう。

 

自然との関わりは、実際に触れたり経験したりすることで、より身近なものに感じることができるようになるでしょう。そして、絵本や図鑑を改めて読み直すことで、これまで気付かなかった発見や考えが芽生えていくでしょう。

 

保育士は、子どもたちが自然や生命に対して関心や興味をもてるように、自然と関われる機会を保育に取り入れることが大切になります。

⑧ 数量・図形・文字等への関心・感覚

目的は、「生活や遊びを通じて、自分たちに関係の深い数量、長短、広さや速さ、図形の特徴などに関心をもち、必要感をもって数えたり、比べたり、組み合わせたりする」が挙げられます。

 

その他に、「文字や様々な標識が、生活や遊びの中で人と人をつなぐコミュニケーションの役割をもつことに気付き、読んだり、書いたり、使ったりする」も挙げられます。

 

この目的に対する事例は、「遊びや生活の中で出会う、数量や形、文字があることに気付き関心が高まるようになる」、「自分で文字や形を書いてみたり、相手に伝えたりするようになる」などです。

 

子どもは、生活や遊びの中に文字や数、形に興味をもち、それがどんな意味があるのか知りたがります。そして、関心が高まることで、自分で表現して相手に伝えるようになるのです。

 

保育園での環境には、文字や形、数がたくさんあります。例えば、友達の名前や給食の数、遊具の形などです。

 

保育士は、子どもたちが数や形、文字に興味がもてるように声をかけたり、絵本の読み聞かせや一緒に関わる中で興味がもてるように関わったりすることが大切です。

 

子どもによって関心や感覚は違うため、無理に文字や数を理解できるようにするのではなく、親しみながら関われるようにすることが良いでしょう。

⑨ 言葉による伝え合い

目的は、「相手の話の内容を注意して聞いて分かったり、自分の思いや考えなどを相手に分かるように話したりするなどして、言葉を通して教職員や友達と心を通わせる」です。

 

その他に、「絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞き、想像する楽しさを味わうことを通して、その言葉のもつ意味の面白さを感じたり、その想像の世界を友達と共有し、言葉による表現を楽しんだりする」もあります。

 

この目的に対する事例は、「相手の話を注意しながら聞き、自分の思いや考えを伝えるようになる」、「絵本や物語などのお話に興味をもち、言葉や文字で自分なりに表現したり伝えたりするようになる」、「文字の必要性や言葉で伝えることの必要さを生活の中で気付く」などです。

 

小学校に進学する前にも言葉や文字に触れる機会はたくさんあり、子どもたちは様々な表現をしたいと感じているでしょう。

 

保育士は、子どもたちが言葉を通して伝え合えるように、絵本の読み聞かせや語り掛けることなど、生活の中で興味や関心がもてるように関わることが大切です。

⑩ 豊かな感性と表現

目的は、「生活の中で美しいものや心を動かす出来事に触れ、イメージを豊かにもちながら、楽しく表現する」、「友達同士で互いに表現し合うことで、様々な表現の面白さに気付いたり、友達と一緒に表現する過程を楽しんだりする」です。

 

この目的に対する事例は、「花が咲くことに感動したり、水が流れる様子に興味をもったり、そのことに対し、様々な表現をしながら楽しんだり感じたりするようになる」、「遊びや生活の中で感じる音や動きに対して、作ったり表現したりするようになる」などです。

 

友達同士で積み木や工作で表現するようになることも当てはまります。

 

豊かな感性を育むためには、生活する中で様々なことに触れる経験が大事です。保育士は、子どもが様々な経験を積めるように援助することが大切になります。

 

また、その感性を表現できるように、道具や材料を準備しておくことや、子どもたちが表現できるように声掛けや見守ることも必要になります。

 

子どもが感動する経験や心動かされる経験を伝えたいと思っているときに、保育士はその思いやよろこびに共感し、子どもの感性が育めるように関わりましょう。

3.幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」を取り入れる際に意識すべきことは?

 

「10の姿」は、保育5領域を踏まえながら、小学校就学前の子どもが小学校就学までに育ってほしい姿を記載しています。

 

「10の姿」を保育に取り入れる際には、次の5つのポイントを意識しましょう。

10の姿は目安あくまで個性を尊重する

保育所保育指針や幼稚園教育要領に記載されている「10の姿」は、小学校就学までに育ってほしい姿です。決して、小学校就学までに身に付けなければならないものではありません。

 

子どもは、育ってきた環境や個々の発達により、成長する姿は様々です。

 

無理に「10の姿」に沿うように保育を行うと、その関わりが負担になってしまう子どももいるのです。

 

例えば「10の姿」の項目で、まだ子どもが育っていない項目があるとしましょう。その場合、保育士は子どもの成長に合わせてどのように保育を行えば、該当する10の姿に近づけるかを工夫しながら援助すると良いでしょう。

 

保育の10の姿とは「幼児期の修了までに育みたい姿や能力」の保育指針です。5領域を10の視点で細分化したもので、目標達成が目的ではなくあくまで子どもの成長をみるための目安となるものです。

 

子どもの個性を尊重しながら、「10の姿」を目安にして保育を行いましょう。

保育の5領域から10の姿を意識する

子どもがどんなことに興味を持っているか、発達段階をよく見ましょう。

 

10の姿はあくまで、5歳児修了時までに育ってほしい姿なので、3~4歳児にそのまま当てはめるには高度です。

 

3、4歳児は5領域をベースにねらいを考え、5歳児から10の姿を意識しましょう。

関心を引き出し遊びこめる体験を検討する

子どもは遊びこむことで、自ら考える力を育みますが、教育課程や全体的な計画の見直しの際に体験やプログラムを新たに検討するのも一手です。

 

例えば、10の姿の数量・図形・文字等への関心・感覚は、一般的には積み木やブロックなどの玩具等が用いられますが、映像や教具を使ったプログラムもおススメです。

 

図形プレートなどの教具を用いるIQパズルは「量感」「空間把握力」「仮説思考力」など非認知スキルを伸ばすプログラムで就学前の3~6歳が自分のペースで進めることができます。

小学校に教育をつなげる

10の姿は小学校教育との連携も考慮して設けられています。

 

10の姿を通じてその子の個性や成長をできるだけ分かりやすく具体的に伝えることは、将来の指導に大いに役立つでしょう。

 

10の姿を念頭に、どのような指導が適切なのか小学校への申し送りを考慮しておくのも大切です。

達成目標ではなく「目安」と捉える

「10の姿」は、達成目標ではありません。

 

あくまで、小学校就学までに育ってほしいと考える「目安」であると捉えましょう。

 

子どもの成長は、みんな同じように成長するとは限りません。これまで育ってきた環境や発達のスピードによって、成長する姿は様々です。

 

例えば、工作は好きだけど生き物は苦手な子どもがいた場合、無理やり生き物と関わるような援助は行いません。

 

生き物が載っている図鑑や写真を通して伝えたり、その図鑑や写真を参考に工作で表現したりするなど、少しずつ生き物に関心がもてるように関わると、子どもにも負担がかからずに生き物を意識することができるでしょう。

 

「10の姿」は小学校就学までに育ってほしい姿です。「育たなければならない」と説明されているわけではありません。

 

あくまで、子どもの得意なことを伸ばせるように関り、「こんな姿に育ってほしいな」という意識で保育を行いましょう。

4.まとめ

 

幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」は、2017年に、保育所保育指針、幼稚園教育要領、認定こども園教育・保育要領が改定されたときに、共通に記載された内容です。

 

保育5領域は各年齢に沿った援助の内容が記載されています。5領域を参考にしながら、「10の姿」に近づけるように保育内容を考えていくと良いでしょう。

 

この「10姿」に記載されている内容は、小学校就学までに育ってほしい姿であって、「育たなければならない」と強制するものではありません。

 

子どもの成長を振り返ったときに「10の姿」に当てはめてみて、もし育っていない項目があればどのようにしたら育つかを考え、工夫しながら保育を行うと良いでしょう。

 

その場合も無理に成長させようとするのではなく、どのようにすれば無理なく10の姿に近づくことができるかを意識して保育をすると良いでしょう。

 

また、小学校との連携にも「10の姿」は活用できます。小学校に就学する際の申し送りに10の姿を基準として考え伝えることで、小学校側も子どもの理解がしやすくなります。

 

今回の記事の内容を参考に、「10の姿」を意識し、子どもが健やかに育つ保育を充実させていきましょう。