「保育の質とは具体的にどのようなこと?」
「保育の質向上のために何が必要なのか知りたい」
このように、保育施設を運営する方の中には、保育を向上させるための方法について疑問を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、保育の質の概要や、保育の質を向上させるための具体的な取り組みについてご紹介します。本記事を読むことで保育園業務の発展が期待できます。保育施設を運営している方は、ぜひ参考にして下さい。
保育の質とは
昨今の少子化の影響で、保育は量から質へと移行しています。保育の質が子どもの発育に直接影響することや、国の経済上昇にも効果があることが理由と考えられます。
「子ども・子育て支援新制度」においても、保育は量だけではなく質が重要であることが記されています。そして、保育の質を充実させるためには、子ども・子育てへの社会支援が必要です。
実際に、文部科学省による「幼児教育の実践の質向上に関する検討会」や、厚生労働省の「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」の実施など、保育の質を向上させるために国全体の支援が進められています。
そもそも、保育の質とはどのようなことを指すのでしょうか。保育の質とは、その国の歴史的・文化的・社会的背景の下で形成されているものであり、様々な複合要因が重なっているため、根本的原理を一つでまとめることは困難です。
これは、厚生労働省による「平成30年保育所等における保育の質の確保・向上に係る関連資料」で記されています。
関連資料の中の「保育の質の基本的な考え方」によると、保育の質とは、社会や文化ごとの保育の取り組みや機能、方向性などが関わる多元的なものです。
具体的には、政府や自治体機関の方向性やナショナル・カリキュラム等で示す教育(保育)概念、物的・人的環境要因、現場の対応・運営や質、保護者や子どもたち同士の関係性(保護者同士の関係性)、将来の子どもへの影響・幸福度などが挙げられます。
上記のように、一元的に定義できないものであり、保育の質が円滑に機能させるためには、これらの諸側面が全体的に上手く連携することが重要になります。
子どもと保護者との関係、保育園や自治体、国の機関などが中心となり、保育の質を向上させるための機能を充実させることで、子どもたちが精神的肉体的に満たされて、充実した豊かな人生を送ることを支える環境や経験に影響を与えることができるでしょう。
出典:保育所等における保育の質の確保・向上に係る関連資料|厚生労働省
保育の質向上のために求められる視点
保育の質を向上させるためには、どのような視点が求められるのでしょうか。保育の質向上には、理想ではなく確実な効果があることと、各機関が連携を深めることが大切です。
「主体的・組織的・協同的」でなければならないことを、厚生労働省は「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会 議論の取りまとめ」で示しています。
そして、子どもが中心の保育指針が基本であり評価・研修等の様々な取り組みを、各関係者同士がベクトルを合わせて方針を一つにすることが重要である旨記されているのです。
厚生労働省のガイドラインによると、上記の評価・研修等とは、子どもの成長を保護者が記録することです。子どもと会話するなど生活を保育に繋げることを指します。
また、保護者同士が交流を深めて子どもを様々な角度で見ることや、自治体などの機関が実施する研修会なども求められるでしょう。
現在、自治体が主体となり進められている研修に、保育園と他の機関の行き来を長期間続ける「キャリアアップ研修」があります。東京や横浜などの関東地区や、広島や鹿児島などの西日本で実施中です。
その他、全国の自治体では教育機関を設置するなど幅広い取り組みが見られます。これらは全て、保育園や保護者、自治体などが子ども中心で進める保育の質向上のための取り組みです。
相互の連帯を深めることで「主体的・組織的・協同的」な保育を理解して、効果的な保育の質向上を図っています。子どもの成長や生活を、各機関が振り返るコミュニティを形成することが、確実な保育の質向上に繋がるのです。
これらの取り組みは一部であり、保育者の労働環境や保育者の配置方法などの保育内容、保育園の環境整備なども今後重要な課題といえるでしょう。さらに、保育園と幼稚園の組織統一などについても、具体的な方針の検討が求められます。
出典:厚生労働省(2020)保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会 議論の取りまとめ
出典:厚生労働省(2020)保育所における自己評価ガイドライン(2020改訂版)
保育の質向上のための取り組み
保育活動環境の整備
保育の質を向上させるためにはどのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。良質な保育を運営するためには、まず保育活動環境の整備が必要です。こちらでは、保育園内の整備などについて解説します。
園内での事故防止
園内を整備して事故を防ぐことは、子どもたちへの良質な保育に繋がります。
園内では乳幼児がぬいぐるみや布団、ひもなどで窒息するケースがあります。特別な理由がなければ、乳児の顔を仰向けにして寝かせるなど安全な睡眠環境を整える必要があります。
また、プール遊び中の事故発生を防ぐためには、監視体制の強化などがあるでしょう。
食事中には、子どもが焦らず食べられるように配慮することや、量を調整する、水分のある食事に気をつける、食事中の姿勢に注意する、などがあります。
その他にも、食べ物アレルギーを把握しておくことや、代替食の正しい提供など、様々な事故防止方法があります。
これらは、内閣府の発表したガイドラインに明記されています。保育園は各施設や環境に合わせて、独自の手引きを作成する必要があるでしょう。職員同士が連携して情報を共有することが、園内での事故に繋がるのです。
出典:教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン|内閣府
適切な職員の配置
保育施設に合わせた職員の適切な配置が必要となります。子どもたちが、安心安全に保育を受けるためには、正しい職員の配置が重要です。
保育施設では、国や自治体が定めた配置基準で職員を配置していますが、認可型や地域型など保育施設によって形態は様々です。
子どもの年齢や人数に応じた保育士が求められます。しかし、人手不足のためになかなか配置基準を満たすことが困難な状況にあるのです。
中には、資格のない職員を受け入れるなどの処置をとらざるを得ない保育園もあるでしょう。このような職員の体制について問題視する保護者もいます。
また、職員の経験やスキルが、子どもたちの保育に直接影響するため、安全性を心配する保護者も存在するでしょう。
このような状況の中、保育の質を向上させるためには、職員体制を強化することや経験の乏しい職員に対しての研修などを定期的に行い園全体のバックアップを図る必要があるでしょう。
遊びの環境を整える
遊びの環境の整備も大切です。保育園では、施設ごとの方針によって遊びの環境が異なります。保育施設の多様化で、子どもが触れる遊びが変化しているのです。
屋内遊びを主体にする保育園や、屋外遊びに時間を費やす保育園など様々あるでしょう。また、教育に重きを置く保育園もあります。
屋内での遊びには絵本やままごと、ブロック、玩具などがあります。使い分けや消毒、配置など子どもたちが使いやすい環境の整備が大切です。
また、屋外遊びでは、遊具が壊れていないか、夏は熱中症対策として日差しが確保できているか、などに注意する必要があります。
その他、絵本などは子どもの目線に合わせて配置する、あらかじめ制作用具は人数分で分けておくなど細かい点も留意しなければなりません。
保育園によって保育方針も様々であるため、他の保育施設の視察を行って、良い面を取り入れると良いでしょう。
大切なことは、子どもたちが遊びを通して、考えやインスピレーションを育める環境を作ることです。職員が環境を支援する必要があるでしょう。
保育士の労働環境改善
保育の質向上の取り組みとして、保育士の労働環境改善が挙げられます。保育園の労働は体力的精神的な負担が多く、職員が待遇に見合わないことを不満に退職するケースがあるのです。
子どもたちが安心して保育を受けるためには、保育士の労働環境の改善が必要となるでしょう。こちらでは、業務量や労働条件、待遇など具体的な改善方法を解説します。
待遇の改善
保育士は、給与に対して業務量が多い傾向があります。そのため、待遇に不満を感じるケースは少なくありません。
業務時間内の子どもたちの保育以外にも、連絡帳の作成やイベントの準備など様々な雑務がなどあります。業務量が多い上に、給与自体が他業種に比べて少ない傾向があることが実情です。このような、複合的要因から待遇に見合わないと感じることもあります。
待遇面の改善は国の施策の一つであり、月額の給与アップや経験やスキルによる昇給などに積極的に取り組んでいます。
保育園が保育士の待遇を改善するために賃金を上げるなど、独自のシステムを導入することが必要です。経費を削減することで給与に反映することができるでしょう。
また、住宅費用の補助や交通費の見直しなども積極的に行うことも大切です。手厚くサポートすることが離職を防ぐことに繋がります。このような取り組みは保育士の心の支援にもなるのです。
人間関係の改善
保育士の労働環境改善の取り組みの一つに人間関係の改善があります。人間関係は保育士の離職理由の一つです。
保育園は規模や施設ごとで人間関係のあり方は様々です。とくに、小さい規模の保育園の場合で限られた人数の保育士で運営しているときは、保育士同士の連携が取れないことがきっかけで、保育園全体の人間関係の悪化に繋がるケースがあります。
また、新任の保育士が先輩保育士と上手に付き合えないことや保護者との関係構築など、それぞれの立場で人間関係に悩むケースもあるのです。
人間関係の悪化は、保育の質を下げます。相手の立場を考える、コミュニケーションを深める、一人で悩まずに周囲に相談するなど、人間関係を改善するための方法を見つけることが大切です。
保育士同士で食事会を設けて交流の場を増やす、メンタル面の支援制度を充実させる、ストレスチェックを行うなど、具体的な取り組みを強化することで、人間関係の改善に繋げることができるでしょう。
時間外労働などの改善
保育士の業務は多岐にわたります。イベントの計画や実施、指示書などの作成、周囲の清掃作業など様々です。
このような業務量の多さから、平日に終わらなかった業務を自宅に持ち帰ることがあります。また、イベントがあるときは土日の休日を返上して業務にあたるなど、時間外労働が多いことも現状です。
さらに、業務時間内であっても子どもたちのお昼寝時間に連絡帳を作成することや、行事の準備作業など休憩時間が取得できないケースもあるのです。保育士は、子どもたちと接するだけではなく、その他の業務が多いことがわかります。
時間外労働を改善するためには、保育士が希望する勤務形態を受け入れる、勤務体制をシフトに変える、業務内容の量を保育士間で調整する、業務の優先順位を決めて見直しを図る、など具体的に見直しを行う必要があるでしょう。
作業の効率化を図るために、インターネットで情報システムの導入などを検討することも重要です。
保育士の復帰支援
保育の質を向上させるための取り組みに保育士の復帰支援があります。厚生労働省は、「潜在保育士ガイドブック」の中で、現在保育士の職を離れている資格所有者を「潜在保育士」と定義しています。
令和2年に調査された厚生労働省の「保育士の現状と主な取組」によると、保育資格登録者数が全体で約154万人です。これに対して「潜在保育士」の人数は約95万人を占めます。
保育資格を登録して現在業務に従事している保育士の人数が約59万人であるため、「潜在保育士」の人数は従事人数の1.5倍以上にあたるのです。
保育の質を向上させるためには「潜在保育士」の復職が重要な鍵となります。業務の過酷さなどを理由として保育士の人手不足が増える中で、「潜在保育士」が古巣に戻る機会を作ることが保育園の課題といえます。
復職後のフォローや、教育システムの強化、マニュアルの作成など、各施設の具体的な支援を行うことで、復職のきっかけとなるでしょう。
保育士のスキルアップ支援
保育士の業務は、子どもの保育から指示書の作成などの事務処理、ピアノや歌、保護者とのコミュニケーションなど様々です。
中には、今以上業務に精通する実力を身につけたいと感じることや、保護者や保育者間の連携を強化したいと考える保育士の方もいるでしょう。
保育士のスキルアップ支援は、業務の効率化を図ることや、保育士自身の精神的な成長にも繋がります。接する子どもたちにもプラスの効果が期待できるため、保育の質向上に貢献できるでしょう。
例えば、保育園で資格取得のための情報を開示する、セミナーや講習会の紹介を行う、など具体的な策定がスキルアップのきっかけになるのではないでしょうか。
保育士の意思を尊重しながら意欲を伸ばすことが大切です。一人一人の業務に対する意識を高めて、保育の質の向上を目指しましょう。
ICTシステムの導入
ICTシステムを導入することで、事務作業の効率化が期待できます。子どもの個人情報を管理することや、保護者との連絡手段、園内の情報共有などのシステム化を図ることができるためです。
実際に、ICTシステムを導入する保育園は増えている傾向があります。保育士の業務負担の軽減など、直接的な効果が得られるとして注目されているのです。
保護者や保育士間でのコミュニケーションツールとしても活用できるため、滞りなく連絡することが可能です。作業の効率化だけではなく、良好な人間関係の構築にも繋がるでしょう。
また、ICTシステムは国からの補助金や助成金などを活用することができるため、導入時のコスト負担を軽減することができます。保育の質を向上させるためにも、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。
ICTシステムの導入ならChild Care System
Child Care Systemでは、様々な機能から事務作業の効率化を図ることができます。
例えば、保育園での子どもの様子は連絡帳アプリを使用することで、保護者に円滑にお知らせすることが可能です。また、連絡帳に記載する手間を省略できるため、子どもの保育に時間をあてることができるでしょう。
また、保育士の出勤スケジュール調整や子どもたちの登園予定もアプリで管理することが可能です。シフト作成が簡単にできるため、コストの削減にも繋がります。
その他にも、お昼寝時間の子どもの安全を守るセンサー CCS SENSERや、自治体への補助金請求方法など、データで管理することで保育の質向上に取り組むことができるでしょう。
まとめ
この記事では、保育の質とは何か、保育の質を向上させるための取り組みについてご紹介しました。
様々な取り組みがありますが、保育園や保育士の環境整備を通して、保育の向上に繋げることが大切です。
とくに、保育士の待遇の改善は重要な課題となるでしょう。保育士にとって居心地の良い職場づくりが求められます。保育園や保育士、保護者が一体となって、保育の質向上に取り組みましょう。