保育の専門性は理解されにくい…

「保育士の仕事が専門職と認識されておらず、ただ子どもと遊んでいるだけとしか捉えられていないことが悲しくなります…」(「平成30年度東京都保育士実態調査報告書(東京都)」掲載の声)

このように感じたことのある保育者も多いのではないでしょうか? 子どもと遊んでいるようなイメージが大きく、保育の専門性を多くの人に正しく理解してもらうのは難しいものです。
実際、保育の専門性は、発達理解・子ども理解、保育環境構成、保育技術、保育計画の立案・目標の設定、安全管理、子どもの健康管理、保護者対応など多岐にわたります。

10年で1.7倍に増えた障害児数。高まる障害児保育のニーズに現場の保育士は…?

しかも、近年、いわゆる「気になる子」や障害児の対応について、「コミュニティソーシャルワーカー※1」としての家庭支援、育児支援も求められており、保育士の仕事の大変さは増しています。
実際に、平成22年には約45,000人だった障害児の数は、令和元年には約78,000人と、10年で約1.7倍に増えています。障害児受入保育所の数も増えており、障害児保育へのニーズは年々高まっていますが、保育現場の保育者の中には、「気になる子にどのような支援をしたらよいのかわからない」、「接し方を習得したいと思っている」という人が71.5%(参考図1)もおり、手探りで保育にあたっているのが現状と言えます。

(参考図1)習得を希望する知識・技術【現在保育士就業中】(複数回答)
東京都 平成30年度東京都保育士実態調査報告書より

保育園は、集団の中で遊んで学び成長する場です。障害のある子も障害のない子も関わりあうことで、お互いを理解し、成長しあうことが理想ですが、クラス全員の様々な個性を理解し、受け入れて、適切な支援をすることは簡単ではありません。特に経験の浅い若手の保育士ならば、なおさらのことです。もっと保育士をサポートする技術や周りの支援が必要なのではないでしょうか。

「集団での育ち」をサポートしたい-クラス全員の発達を把握しやすく-

さまざまな個性をもつ子どもたち1人ひとりに最適な保育を提供するためには、子どもたちの興味関心と発達を正しく把握する必要があります。子どもの興味関心は保育士も理解しやすいですが、発達については、情報量が多すぎて複雑なために、分析しなければ理解することができません。
そこで当社は今年、子どもたちの発達を可視化するシステムの開発に着手します。担任保育士の視点、保護者の視点、訪問支援員の視点をシステム上で集約し、目に見えなかったクラス全体の発達状況を「見える化」することで、クラス運営のどこに課題があるのか明確になり、子どもへの適切な関わり方がわかるようになります。
クラスの子どもたちの発達は1人ひとりが異なるため、発達を可視化して分析することで、クラス担任が全体を把握できるようにして、特に「気になる子」には正しいアプローチができるように支援することで、保育の専門性を磨く手助けができるようになります。

未来の保育を創る

保護者にとって子育てで最も頼れる存在の1人が、身近な保育士です。その保育士が個人的な経験や勘を頼りにした支援ではなく、専門家として適切なデータやエビデンスに基づいた子育て支援を行うために、AI等の技術を活用できる環境を整えていくことが必要だと、当社は考えています。

※1コミュニティソーシャルワーカー:支援を必要としている人に対し、相談や生活支援や公的支援の活用を調整する専門職


参考文献:
厚生労働省子ども家庭局保育課   保育を取り巻く状況について(令和3年5月26日)
東京都 平成30年度東京都保育士実態調査報告書
保育科学研究 第8巻(2017) 「保育現場の視点からとらえた『保育士の専門性』議論の再考」
一般社団法人日本保育学会 保育学研究 第56巻 第2号(2018年)
「育児ソーシャル・サポートにおける保育施設の可能性-幼稚園児を持つ親の意識を手がかりとして-」
オピニオンレポート 貞松成「『子どものことでどうしたらよいかわからなくなる』割合が示唆する保育士が専門家として保護者の『頼れる人』になる未来」