子ども理解研究室で今、目指していること

子ども理解研究室の役割とは

私たちとしては、一人ひとりの子どもに『個別最適化』した保育を実現したいということがあります。当然ながら、個別最適化した保育をするには、子ども一人ひとりについて丁寧に理解しなければなりません。しかし、『子どもの理解』と簡単に言いますが、そのための手順とかプロセスは、明確になっているとは言えないでしょう。

現時点では、保育士が子どもたちの様子を記録し、それをそのまま見返す、というのが一般的だと思います。

保育所では、日々子ども達に関する様々な情報が蓄積されています。この子どものデータを分析していくことで、エビデンスに基づいた『子どもの理解』につながるのではないかと考えています。

 

子どものデータを分析するとは

データを分析するとうことは、基本的には、情報を統計的に処理するということです。

最近は、機械学習とかAI、深層学習と盛んに言われますが、それらは『統計的機械学習』に属すもので、統計が背景にあります。多様なデータを解析して、有益な情報を提示したり、予測や推論を可能にしたりするもので、数字の塊、データの塊の中から人間が一見しただけではわからないパターンを見出します。

子どもの発達においても、何らかのパターンを見いだせれば、時間軸を先に進ませた時に、どういう変化をするのか見通しも立ちます。

 

パターンといっても、画一的な発想を取るのではありません。

統計的機械学習の技法で、子どもの発達に関するたくさんのパターンを見いだせれば、『定型発達ではない=障がい児』ではなく、子ども一人ひとりの個性的な発達や成長の特徴を「パターンの多様な組合せ」として把握できるようになると思っています。

 

直近の課題とは~パターン抽出、組合せの精緻化

このような発想で、子どもたちの情報を解析してこうとしている訳ですが、今直面している課題が2つあります。まずは、データからどれだけ精緻にパターンを抽出し、その組合せをどれ位精緻にできるかということです。

 

パターン抽出の方法に、万古普遍の正解はありません。子ども集団が変われば、パターンも変化しますので、随時で、パターンの抽出方法の精緻化を進めていくことが必要です。子どもの発達過程の記録化の手法も変化していきますから、パターンの抽出方法もそれに合わせて変化していくことが必要です。

同じデータから、どれだけ「意味」のあるパターンを見いだせるか、常に「精緻化」を目指して、

 

また、当然ながらパターンとは、一種の「理念型」ですから、その通りの展開を見せる子どもは存在しません。複数のパターンの組み合わせで、子どもの特性が形成されるのだと考えています。そのミクスチャー具合をどう精緻に計算するのか、どれぐらいやるのか、ということも、「精緻化」という点で重要だと思っています。

 

もう一つの課題~メンタルモデルのアップデート

もう一つの課題は、そうして分析した結果を、保育士や保護者にどう受け止めてもらうかということです。人は物事の差異を比較で把握しますから、例えば発達の違いを数値化して示すと『成績表』のように受け止められてしまう可能性があります。つまり、発達経過記録の分析資料が、成績表のメンタルモデルで受け取られ、ある種の抵抗感、忌避感を誘発するという問題です。

このようなマイナスを生み出す要因としては、「現状分析」の資料をみる、つまり「発達の今」を見てしまうと、どうしても「今、できないこと」に人間は目がいってしまうことが関係するのではないかと思っています。というのも、そのせいで、発達分析の資料を見ることについて、保育者(や保護者)が否定的印象を持ってしまうことにつながるからです。

 

そこで、分析資料に対するメンタルモデルの抜本的な反転をもたらすことを企図して、分析資料において、発達の見通しの結果をより前面に押し立てたフォーマットを検討する必要があると思っています。要すれば、「今、できない」を「これからできるようになる」にゲシュタルト反転させるべく、分析結果のプレゼンの仕方を根本的に見なしていこうと考えています。

 

 

このような課題を克服して、「子ども一人ひとりに合わせた」「個別最適化」した保育を実現するための、データ分析基盤整備に貢献していくことが、私たちの目指していることなのです。