同僚と話し合うことで、自分が上書きされていることを実感!!~【知識構成型ジグソー法による協調学習】

保育施設における「人材育成」という課題

日々、あい・あい保育園の皆さんとは様々な意見交換しているのですが、施設運営の中で、「保育士の育成」について、悩まれている園長が多いなと感じています。では、保育施設の「人財育成」とは、どうすれば良いのでしょうか?

個々の保育スタッフが、外部研修で学ぶことができるように、業務体制を作っていくということも一つの方法でしょう。他方、「保育の現場・職場の魅了向上に関する報告書」や「自己評価ガイドライン」でも、人財育成策として積極的に触れられているのが、施設内における保育スタッフ同士の学び合い(振り返り)です。保育士、看護師、調理師などの保育スタッフが、日々の実践の中で生じる課題について、解決策を話し合っていくなかで、「学び合い」、レベルアップしていくことです。

こういった課題解決目標の話し合いについては、ファシリテーション等々のカタカナ語が乱舞する世界ではありますが、日本の教育学/教育工学の中で盛んに研究されている知見も大変参考になる分野です。

今回私たちが着目したのは、「知識構成型ジグソー法」という「授業」スタイルです。

この方法は、教師が生徒・児童に対して行う授業のスタイル、方法論ではありますが、「大人の学び合い」、それも、園長や施設長のような「学びを主導すべき立場」の方がいる状況での「学び合い」の方法として有効なのではないかと思われます。

そこで、私たちは、先日、「知識構成型ジグソー法」を開発された東京大学・高大接続研究開発センターの白水始先生と飯窪真也先生をお招きして、勉強会を開催させていただきました。

知識構成型ジグソー法とは

この授業法は、対話を通じて理解を深める学習環境デザインのための一手法です。この方法の正確、詳細な内容は、末尾の参考文献をご覧いただいた方が良いとは思いますが、以下の5つのステップを実践することで、課題に対するより深い理解を導くことができるように構想されています。

①「一人では十分な答えが出ない」課題に対して、一人ひとりがまず自力で考えてみる。

②答えを出すためのヒントとなる「部品」(資料)を小グループに分かれて担当して理解する(エキスパート活動)。

③それぞれ異なる「部品」を担当したメンバーが集まって新しいグループを作り、その内容を交換・統合して課題にアプローチする(ジグソー活動)。

④各グループが、それぞれどんな答えを出したのかを聞き合う(クロストーク)。

⑤最後は一人で書き留める。

実際に体感した感想

このスタイルの授業の体験を行う際の①の「課題」とは、通常は教科の課題になる訳ですが、今回の勉強会では、講師のご厚意で、保育に携わる社会人向けのものをご用意いただきました。具体的には、次の2つの関連する「一人では十分な答えが出ない」課題が設定されました。

Ⅰ:子どもは普段どんなことができて、どんな学びの力を持っていると言えるでしょう?

Ⅱ:子どもの学ぶ力を引き出すために、周囲の大人(保護者含む)は何ができるでしょう?

 

そして、上記②のエキスパート活動用の資料として、「子どもたちのボール遊び」「子どもたちの氷遊び」のエピソード記録、そして、「大学院生等二人によるミシンの構造解明」の議論の記録が用意されました。

これらの準備の元に、①から⑤のステップで体験を進め、最後に①時の自分の課題への回答と⑤時の回答を、各自比較し、体験の効果を実感していきました。

 

実際に知識構成型ジグソー法を体験した参加者の感想の一部を紹介いたします。

◎学習の前後で回答が変わることを実感しました。特に、ジグソー活動では、それぞれが違う資料から得た知識や考えを共有、比較することで、より深い理解に繋がりました。

◎クロストークによって、自分たちの出した回答とは別の見解もあることを知り、理解の幅が広がりました。

◎学習の中で、自らの知識や考えが段階的に更新されていく感覚は、今までの学習の中では体感したことのないような不思議な体験でした。

ICTを活用したサポート構想

また、知識構成型ジグソー法の開発、普及の当初から、学習活動をサポートするICTツールの開発構想がスタートしていたそうです。

①や②の段階における「課題」やエキスパート活動用の「部品」の蓄積を進めるために、授業研究コミュニティにおける情報共有の必要性が当初から意識されており、そのための、課題案やエキスパート活動用教材を共有できる会員制データベース(学譜システム)が、実際に稼働しています。

また、この方法の授業では、⑤の段階で、各生徒等はどれだけ到達目標にたどり着けたかも大事ですが、①と⑤の間で「どれだけ伸びたか」が学習成果として重要視されています。そして、エキスパート活動、ジグソー活動や④のクロストークにおける生徒等の対話の状況が、授業としての質の「振り返り」の重要な材料とされています。そのため、生徒等の対話記録を自動的に作成し、その対話記録を分析しつつ、学習成果を評価するシステム(学瞰システム)も開発されています。

こういったICTシステムは、保育士の指導案の作成プロセスや園内カンファレンスの運営をサポートする視点として、非常に参考になると思います。

保育施設における人材育成サポートシステムへ

知識構成型ジグソー法を取り込んだ園内研修、カンファレンス等によって保育士同士の建設的相互作用を生み出せれば、保育における課題をチームで解決するための力、子どもたちに日々の気づきを与え、その成長に貢献するための力を養っていくと考えます。

人財育成にベストの解法があるということでもないかも知れませんし、人財育成をICTシステムだけで一気に解決ということではありませんが、今回ご紹介した知識構成型ジグソー法のような先進手法をより負担感なく実践してく上では、各種の材料を作り出す部分(おそらく、ある種のドキュメンテーションや保育指針解説等の文献から資料の抽出作業ということになるのではないかと思います)、それらの共有、話し合いの様子を記録化し、分析する部分などで、システムにやらせた方が良いこともたくさんあるかと思っています。そのような方向で、CCSサービスが貢献できるようなことを目指していきたいと思っていますので、ご関心がありましたら、是非、お問い合わせください。

<参考文献>

当記事を読んで「知識構成型ジグソー法」に興味をお持ちいただいた方のために以下の4つの書籍を紹介いたします。

・三宅なほみ・東京大学CoREF・河合塾編著『協調学習とは―対話を通して理解を深めるアクティブラーニング型授業』北大路書房

・白水始著『対話力』東洋館出版社

・飯窪真也・齊藤萌木・白水始編著『「主体的・対話的で深い学び」を実現する知識構成型ジグソー法による数学授業』『同中学校国語授業』明治図書

・三宅芳雄・白水始編著『教育心理学特論』放送大学出版会