STEM(ステム)教育とは、子どもたち自身が課題を見つけ、創意工夫し解決する力を育てるための学習方法です。早めに始めるのがカギと言われ、保育園でも導入が進んでいます。

 

しかし、STEM教育のニーズが高まる一方で、業務時間や人員に余裕がない、活動記録に必要な機材が足りないといった課題もあるでしょう。

 

この記事では、保育園経営者の方や園長先生に向けて「STEM教育」とは何か、保育園への導入の課題、STEM教育導入を助けるICTシステムなどについて解説していきます。

新たな教育モデル「STEM教育」とは?その概要とねらい

子どもの主体性に重点をおいた「STEM教育」は、これからのIT社会と国際競争に対応できる人材を育てるための新たな教育システムです。アメリカをはじめ、シンガポールやインドなどの新興国では数年前から国を挙げて取り組まれています。

STEM教育は子どもの主体性を育てる

STEM教育は、「教えられて覚える」「与えられた課題を解く」といった従来の受動的な教育法とは異なり、「自ら課題を発見し、解決法を考え、理解する」という学び方を教えるものです。

 

創造性との結びつきが強い4つの理系分野を連携させて学習することから、その頭文字をとって「STEM」と名づけられました。最近では、Arts(芸術)が加え「STEAM(スティーム)教育」と呼ぶ場合もあります。

 

・S:Science(科学)
・T:Technology(技術)
・E:Engineering(工学)
・M:Mathematics(数学)
・+Arts(芸術)

 

将来、人工知能(AI)を使いこなし、発想豊かな世界の人材と渡り合うだけの「自発性、創造性、判断力、問題解決力」を養うために、子どもたちが自由に創意工夫できる環境を整える必要があります。

STEM教育が目指すもの

STEM教育が目指すものは、目の前のモノをよく観察し、新しい価値を生み出す「創造力」です。

 

日本ではSTEM教育の一環として2020年から小学校でプログラミング授業が開始されましたが、幼児期は遊びを通して、その土台になる思考力や想像力、表現力を身につけることが大切です。

 

・身のまわりのものを通して、ものの仕組みについて考える
・数や図形など法則のあるものへの興味を養う
・自由な発想で自分がつくりたいものをつくる
・いろいろな友だちと関わりながら、相手の気持ちを察することを学ぶ

 

このような体験が、自らの意思を形にする設計力や問題解決能力としてつながっていくのです。

STEM教育のバリエーション

 

STEAM(スティーム)

前述の通り、STEAM教育とは以下の5つの頭文字から名付けられています。

 

・S:Science(科学)
・T:Technology(技術)
・E:Engineering(工学)
・A:Arts(芸術)
・M:Mathematics(数学)

 

STEAM教育は、体験の中で知ること(探求)とつくること(創造)のサイクルを生み出し、さまざまな課題を見つけ、分野の枠を超えて問題解決をしていくための能力を育成します。

 

文部科学省の「Society5.0に向けた人材育成について」によると、AI時代に対応するためには「文章や情報を正確に読み解き対話する力」「科学的に思考・吟味し活用する力」「価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力」が必要とされています。

 

豊かな発想力が重要になるこれからのAI時代では、STEAMの5つの領域を理解し学びを具体化する能力が必要です。

 

日本でもさまざまな実践例があり、リバネスX静岡聖光学院では食のSTEAM授業と題し、企業や研究者らの講演を聞き、多様な角度から課題解決をすることで、学校での学びと実社会を繋ぐ授業を行っています。

STREAM(ストリーム)

STREAM教育とは、STEAM教育にさらに「Robot(ロボット)」を足し合わせたものです。この先ますます進むAI・ロボット時代に向けて、ロボットを使える能力を身につけ、現実性があるか評価する力を育てる必要があります。

eSTEM(イーステム)

eSTEM教育とは「environmental STEM」の略称で、STEM教育に環境(environmental)をかけ合わせたものです。

 

近年、異常気象や気候変動による災害、森林破壊などの自然環境問題、ゴミや近代化による公害問題など、さまざまな環境問題があります。

 

これからは、環境配慮に根ざした経済社会にしていくことが求められるため、技術の向上のみならず、環境に関する知識や技術を取り入れられる人材を育成する必要があるでしょう。

GEMS (ジェムズ)

GEMS(ジェムズ)とは「Girls in Engineering, Math, and Science」の略称で、米国カリフォルニア大学バークレー校の付属機関LHSで開発されている、幼児から高校生までの年代を対象とした科学・数学分野の参加体験型プログラムです。

 

自分たちで実験を企画し、自由な想像力を使って課題を解決し結論に導くことで、科学の基本概念や方法が学べます。

 

このように、GEMSは体験に基づく学習によって基礎学力を身につけ、さらに自分で考え学ぶ姿勢を育成します。

 

具体的には、「自立した学習姿勢や批判的な思考力を育てる」「科学や数学の中核概念を理解する」「科学や数学の主要技術を習得する」「科学や数学に対する積極的な姿勢を育てる」ことを目標としています。

海外のSTEM教育事情とは?

STEM教育について詳しく説明してきましたが、海外のSTEM教育事情はどのようになっているのでしょうか。

 

アメリカでは、オバマ元大統領が2000年代からSTEM教育を推進してきました。年間数十億ドルものSTEM教育関連予算が投入され、科学技術に優れた人材を育成しようと熱意ある取り組みが行われています。

 

中国では、2015年にSTEM教育について初めて言及しており、2017年に正式交付された「義務教育中学校段階科学課程標準」で、STEM教育が義務教育の課程内に盛り込まれました。特に上海や深センで、STEM教育の取り組みを先進的に行っています。

 

イスラエルでは、軍事面での必要性から幼少期から高校卒業後の兵役までSTEM教育を実施しており、科学技術人材の育成に力を入れています。サイバーセキュリティやプログラミングを重視しており、2000年から高校でプログラミングが必修化されました。

 

EUでは、加盟国内の先進的な取り組みを取り上げて共有・実践することで、EU全体でSTEM人材を育成しています。

海外と比べた日本のSTEM教育の現状

海外のSTEM教育事情を紹介しましたが、海外と比べ日本のSTEM教育の現状はどのようなものか、気になる方も多いでしょう。

 

結論から言うと、日本のSTEM教育は海外に比べるとかなり遅れていると言えます。

 

STEM教育への取り組みが早い国では2000年頃から推進されてきていますが、日本では2016年に文部科学省が「小学校のプログラミング教育必修化を検討する」と発表しました。しかし、実際に全面実施されるのは2020年度からとなっており、諸外国と比較して遅い印象です。

 

また、学校のICT(ネット)環境整備も遅れており、機器が導入されても教師がどのように活用すればいいのか分からず、ICT環境の活用が広がらない現状があります。

 

日本のSTEM教育の導入は国家レベルでは遅れていますが、民間ではさまざまな研究機関や会社がSTEM教育を広める活動をしています。STEM教育を学べるスクールやイベントが増えてきているため、このような取り組みに参加してSTEM教育を受けることも可能です。

保育園・幼稚園でのSTEAM教育とは?

 

これからの時代に必要なSTEAM教育は、保育園・幼稚園でも実践できると考えられます。

 

STEAM教育は自ら考え学ぶことを目標としているため、幼児期からSTEAM教育を受けることで、非認知能力を顕著に伸ばせる可能性があるでしょう。

 

保育園・幼稚園において何がSTEAM教育のどの分野に繋がるのか、ここでは3つ詳しく紹介していきます。保育園・幼稚園でSTEAM教育を導入するにあたり、何が重要なのか参考にしてください。

工作は「E・A・M」に繋がる

保育園・幼稚園で行う工作は、E(Engineering/工学)、A(Arts/芸術)、M(Mathematics/数学)に繋がります。七夕や端午の節句、節分など、季節に合った工作をする場面でSTEAM教育を実践できるでしょう。

 

例えば、箱や立体のものをつくる際、バランスよく組み立てたり形をつくるために配置を変えたりするものづくりは、E(Engineering/工学)に繋がります。ハサミやテープなどの道具を使って形をつくることも、ものづくりに興味を持つきっかけになるでしょう。

 

また、形をつくるための長さや角度などの概念は、M(Mathematics/数学)に繋がります。特に、折り紙は正方形の紙を折って形をつくるため、長さや角度の理解が深まるでしょう。

 

工作の際に、色を塗ったりスタンプを押したり、美術的な技法を使うこともあります。これはA(Arts/芸術)に繋がり、好きな色や表現したい色、使いたい素材を自分で選ぶことで自己表現になり、子どもの思いを叶えられることにもなります。

自然体験は「S・T」に繋がる

保育園・幼稚園では、子どもたちが植物と触れ合ったり虫を飼育したり、野菜や花を育てたりして、自然体験することを大切にしているでしょう。

 

この自然体験の中で、子どもたちはたくさんの知らないことや予想外のことを見つけます。「何で葉っぱの形が違うの」「どうしてセミは脱皮するの」「芋は土の中にできるのに、トマトは枝にできるの」などの疑問が、S(Science/科学)とT(Technology/技術)に繋がるのです。

 

このようなさまざまな疑問に対して「知りたい」と思い、自分で調べて考えることがSTEAM教育に繋がるため、本や図鑑を揃えてあげて常に自分で調べられる環境を整えてあげることが重要です。

科学遊びは「S」に繋がる

科学遊びを取り入れている保育園や幼稚園は多いでしょう。例えば、「糸電話をつくってお話する」「静電気で髪の毛を逆立てる」「野菜を育てる」「昆虫を飼育する」など、科学に繋がる遊びはたくさんあります。

 

この科学遊びは、文字通りSTEAM教育のS(Science/科学)に繋がります。

 

「どうして糸で声が伝わるの」「冬になると髪の毛が立ったりバチバチするのは何で」「どうやったら沢山野菜が育つの」など、子どもが疑問に思い、知りたい、他にも何かあるか調べたい、といった気持ちを引き出すことが大切です。

 

科学遊びを通じて科学への興味を引き立てることで、日常生活においても「なぜ」「どうして」「知りたい」「調べたい」といった思いが強くなり、STEAM教育の目標である自ら考え学ぶことに繋がっていくでしょう。

保育園でのSTEM教育にはおもちゃを活用しよう

子どもは探求心が強く、吸収力も高いため、STEM教育は早く始めれば始めるほど効果的です。保育園でもぜひ実践しましょう。

 

幼児教育に取り入れる場合は、いきなりプログラミングを始めるのではなく、PDCA(計画・実践・評価・改善)を繰り返せるおもちゃから始めるのがおすすめです。子どもは「考える→組み立てる→試す→直す」という流れを通じて論理的思考を学びます。

 

また、「手の動きを鍛える」のもおもちゃ選びのポイントです。脳につながる神経がたくさんある手先の動きは脳の成長を促すため、パズルやつみきなどのアナログトイも上手く活用しましょう。

 

例えば、分割ピースを使ってさまざまな形をつくるタングラムは、図形の分割、選択、構成の感覚が身につきます。パターンカードが付いたつみきは立体問題への強さや図形感覚を育て、ピタゴラ装置や動きがあるブロックはプログラミング学習の素地になります。

 

さまざまなSTEM教育玩具も発売されているため、新たなおもちゃを取り入れる際は検討してみましょう。

STEM教育には「先生の言葉かけ」も大事

保育園でのSTEM教育には、「先生の言葉かけ」が重要です。

 

言葉かけと言っても、解決法や答えを教えることではありません。子どもたちの思考力を伸ばすための言葉をかけてあげることで、探求心を伸ばすことができます。

 

例えば、「どうしてかな」「何で音が鳴るのかな」など、疑問や課題を投げかける言葉かけをしてあげるとよいでしょう。先生からこのような言葉をかけられると、子どもが興味を持って考えたり調べたりしようとするきっかけになります。

 

また、「どうしたら上手くできるかな」「どんなものが必要かな」など、解決するための方法や道筋を考えさせる言葉かけも大切です。

 

子どもはやりたいことのイメージはできていても、そこに至るまでの方法や手順が思いつかないことがあります。そんなときに先生から言葉かけをしてもらうことで、自分で考える力を発揮することができるでしょう。

 

子どもが自分で考えて、調べたり試したりする経験が主体性や創造力を育みます。その手助けを言葉かけでしてあげましょう。

保育園にSTEM教育を導入するときの課題

 

保育園にSTEM教育を導入するにはいくつか課題がある、という園も多いのではないでしょうか。

 

子どもたちが自分で課題を見つけ、創意工夫して解決するSTEM教育は、そのプロセスを記録する保育ドキュメンテーションが重要になります。

 

保育ドキュメンテーションとは、毎日の保育活動を写真や動画で残し、振り返ることで保育計画を考えていくものであり、子どもたちが自分の発見からどのように解決につながったかを理解するのにも大切なものです。

 

しかし、多くの保育園では、こういったこまめな画像管理を行うだけのカメラやパソコンなどが足りていないという現状があります。

 

また、長く続く保育士不足や日常業務の膨大さから、新たな企画や製作の時間がとれないといった事情もみられます。STEM教育を導入するためには、まずこのような課題をクリアすることが必要です。

STEM教育に保育のICT化が必要な理由

 

日本のSTEM教育は海外に比べ遅れていると言われています。導入を早めたい政府は保育現場の課題解決のために、情報通信技術を利用したICT化を推奨しています。ICTシステムの可能性についてみていきましょう。

業務効率化による教育時間の創出

保育士は指導案や連絡帳など多くの手書き業務があり、保育を行いながらの事務作業は大変です。

 

Child Care Systemでは保育業務支援システムを提供しており、単純に業務を効率化するだけではなく、例えば情報の入力や記録のデータベース化にしても、「個別最適化」を念頭に置いた設計を行っています。

 

削減できた時間で教育時間の創出ができるでしょう。

保育ドキュメンテーション作業の簡易化

ICTシステムを導入すると、子どもたちの成長のプロセスを記録する、保育ドキュメンテーション作業の簡易化も期待できます。

 

CCS MEMORUでは、施設内の園児を写した動画や写真を保育士がアップロードして、保護者がご購入いただくサービスを提供しています。簡単にアップロードでき、画像を共有することで保育者と保護者のコミュニケーションが増えるのもメリットと言えるでしょう。

保育記録の管理や見える化

ICTシステムによる保育記録のデータ化によって、管理書類が大幅に減り、情報の引き出しもスピーディーになります。

 

連絡帳アプリ「CCS NOTE」を使用すると、園児の睡眠時間、排便の様子や喫食状況などをいつでも共有でき、保護者とのコミュニケーションを円滑にします。連絡帳に記入する時間を短縮し、活動の進捗や結果を明確に見える化できるため、保育計画も立てやすくなります。

 

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まとめ

 

STEM教育とは、今後のIT社会や国際競争を見据えた「子どもの主体性」を育てるための教育方法です。小さいころからの教育が重要とされ、保育園にも早期導入が求められています。

 

保育士不足や業務量の多さ、機材不足などから、新たな教育に取り組めない保育園が多い中、その解決策として保育ICTシステムが推奨されています。

 

ICTシステムは日常業務の負担を大幅に軽減し、資料作成や画像撮影、データ共有などを簡易化して、多忙な保育現場に時間を生み出すと期待されています。ITを上手に取り入れながら、STEM教育の導入を検討してみてはいかがでしょうか。