保育園に安全対策が必要な理由とは?
保育園は子どもたちを巻き込んだ事故が起きやすい場所です。事故件数は毎年増加傾向にあり、年々危険度が高まっています。
とくに、伸び盛りの子どもたちはケガをしやすいため注意が必要です。死亡事故や重篤となる事件・危険な出来事が起こる前に守らなくてはなりません。
保育園では今までに起こった事故の事例やデータを元に、安全対策を講じる必要があります。
2020年に発生した重大事故の件数
内閣府の「令和2年教育・保育施設等における事故報告集計」によると、2020年に発生した教育・保育施設の事故件数は2,015件です。
この事故件数のうち、負傷等は2,010件で前年に比べて272件増加していました。負傷の中で最も多い症状は骨折で、1,660件にもおよびます。死亡件数については5件となっており、こちらも前年よりも増加しています。
また、事故の発生場所は施設内が1,815件であり、ほとんどが保育園内で発生していたのです。データからも施設 内は危険性が高く、十分に気をつけなければならない場所であることがわかります。
保育園は、年々増加傾向にある教育・保育施設の事故の実態を踏まえて、未然に防止するためにはどのようにすれば良いか検討する必要があるでしょう。
重大事故に隠れているヒヤリハット
ヒヤリハットとは、重大事故に繋がる一歩前の出来事を指します。日本を始めとして、世界的にも様々な分野で用いられている労働災害の経験則です。
1件の重大事故には、原因となる出来事が背後に29件あると考えられています。さらに、その後ろには事故をぎりぎり免れた300件もの異常が隠れているのです。この異常こそがヒヤリハットです。
ヒヤリハットの件数が多いほど、重大事故に繋がることを示しています。保育園内で大きな事故や事件を防ぐには、このヒヤリハットの原因を調査・追求して、どのようにすれば安全を維持できるかを検討する必要があります。
保育園での事故情報が蓄積されている
保育園の事故の情報は国による調査でまとめられています。保育園の安全対策を講じるために、調査結果を分析して事故の原因をより理解することで今後の事故防止に繋ぐことができるでしょう。
保育園などの教育施設で、死亡や治療期間が30日以上のケガ等を伴う重大事故が発生した場合は、事故当日あるいは翌日に保育園を管轄する行政機関へ報告することが内閣府による「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会」で決められています。
事故のデータや情報は、内閣府のホームページで取りまとめていて、集計した年間事故数や原因、対象者年齢、場所などの詳細は「教育・保育施設等における事故報告集計」で確認することができます。
出典:教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会|内閣府
保育園で起きるヒヤリハットとは
転落や転倒
保育園の施設内で、すべりだいやブランコなどの遊具を設置しているケースは多く見られます。そのため、子どもたちが遊具を使用して遊ぶ機会は頻繁にあるでしょう。しかし、この遊具によって転落や転倒を招くなど、ヒヤリハットの原因となる場合があるのです。
転落や転倒のヒヤリハットにはどのような事例があるのでしょうか。子どもたちは行動範囲が広く成長過程でもあるため、様々な事例が考えられます。
例えば「うんていから転落しそうになった」「すべり台から落ちて転倒しそうになった」「かけっこしている最中に転落しかけた」などがあります。その他、想定していないことが原因となるケースもあります。
前述しましたが、事故で最も多い症状は骨折です。すべり台やうんてい、ブランコからの転落や転倒が原因で骨折する可能化は大きいと考えられます。
保育士は安全対策として、遊具で起こりうるヒヤリハットについて十分理解したうえで、子どもたちを観察する必要があります。ヒヤリハットから重大事故に繋がらないように監視して、危険から子どもたちを守ることが大切です。
おもちゃやゴミなどの誤飲
おもちゃやゴミなどの誤飲によるヒヤリハットです。とくに小さい子どもは、手に届く所におもちゃやゴミなどを置いておくと、誤って飲み込んでしまう恐れがあります。
厚生労働省の「2018年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」によると、626件もの誤飲が発生しています。また、誤飲した子どもを年齢別で見ると、0~2才までが多くを占めていました。とくに、1歳未満の子どもは間違えて飲み込んでしまうことが多い傾向です。
具体的な事例としては「おもちゃの欠片を手でつかんで飲み込みそうになった」「ハイハイしていてゴミが口に入った」「つかまり立ちしていてゴミが口に入ってきた」などが挙げられます。
大きい事故を未然に防ぐためには、小さい子どもが多い場所や園内におもちゃが転がっていないか、園庭にゴミは落ちていないか、などを随時確認することが大切です。
おもちゃ自体もよく観察して、破損していないか、壊れやすい状態でないか、など危険因子となるものがないかを十分に点検することが求められます。子どもが口に入れない環境作りが重要なのです。
出典:2018年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告|厚生労働省
やけど
やけどもヒヤリハットの事例として多い傾向です。実際に、食事の準備中や料理中などの際に、やけどで「ヒヤリ」「ハッ」とした経験があるのではないでしょうか。
保育園では、調理家電などに触れてケガを負ってしまうことや、園庭などでも遊具の金属部分に触れるなどで事故の原因となることがあります。
やけどでよくある事例として「熱い汁物が肌に触れてやけどしそうになった」「暖房器具の発熱部分でやけどしそうになった」「直射日光で熱くなった遊具で体をやけどしそうになった」などが挙げられます。
とくに、小さい子どもは大人に比べてやけどでケガを負いやすい傾向があります。子どもは体の構造が未熟であるため、症状が重篤化しやすいのです。
保育園は施設全体で、子どもがやけどしないようにするための環境作りに目を向ける必要があります。保育士同士で周知徹底をして危険を防ぐなど園内の管理に努めましょう。
守らなければならないことを、子どもたちと約束するなどして、意識を傾けることも事故を防ぐための方法の一つです。身近でできることから始めましょう。
水に関する事故
保育園では、子どもたちとの遊びの中で水を使うことがあります。園庭での泥遊びや夏場のプールなどです。
とくに、暑い日に水を使うプールは涼しげで、子どもたちにも人気の高い遊びの一つといえます。
水遊びは子どもたちが時間を忘れるほど無我夢中になる可能性があるため、事故を導きやすいのです。
水に関するヒヤリハットの事例として「プールの水を飲み込み息が詰まりそうになった」「プール周辺の水で滑って転びそうになった」「泥遊び中に泥が目や口に入りそうになった」などがあります。
とくに、プール内では浮力で体が不安定となり、転倒しやすく危険です。また、小さい子どもは少しの水でも溺れるなど重大な事故を発生しやすい傾向があります。
保育士は、子どもたちの監視を強化して常に目を光らせておく必要があります。プールでは油断したすきに危険が発生します。
水に関するヒヤリハットを防ぐためには、監視方法や人数を普段以上に整えておくことが大切です。保育園の関係者が一眼となって危険を防ぎましょう。子どもの目線に合わせた安全な保育が求められます。
散歩中の事故
園外でもヒヤリハットは発生します。子どもたちとの散歩中の事故は気をつけなければなりません。公園に遊びにいくなどの途中で事故にあう可能性は十分にあります。
散歩中のヒヤリハットの事例として「子どもが道路で急に飛び出して事故にあいそうになった」「公園内にある物につまずいて転びそうになった」「通行人とぶつかりそうになった」などがあります。
散歩中の道路や公園では危険が潜んでいます。一般の通行人や車などをすれ違うこともあるため、事故や事件に気をつける必要があります。子どもの場合は大人と異なり、突然飛び出すなど予期せぬ行動をとるものです。
安全対策として、車や人通りの少ない散歩コースを選ぶことが大切です。保育士の人数を増やすなど子どもたち一人一人に目が届くように努めましょう。
また、公園内では危険な物が落下していないか、ゴミはないか、など事前に確認しておくことも重要です。
子どもたちとは、してはいけないことを約束するなどして、緊張感を持った対応が求められます。安心して散歩できる状況を保持しましょう。
お昼寝に関する事故
保育園では多くの場合にお昼寝の時間を設けています。お昼寝中は子どもの個性や性格が出やすく、ヒヤリハットに繋がりやすい傾向があるため危険です。
お昼寝中に関する事故に繋がるヒヤリハットとして「顔がうつぶせになって事故にあいそうだった」「お昼寝中に布団やタオルが子どもの顔に被さりそうになった」「仰向けからうつぶせになりそうだった」などがあります。
子どもは乳幼児突然死症候群(SIDS)の観点からうつぶせの姿勢でお昼寝することで危険であるとされており、常に仰向けを維持して、安全な姿勢になっているか十分な配慮をする必要があります。
また、子どもの性格はそれぞれです。中には睡眠中にうつぶせになりやすい子どももいるのですが、個性や特徴を把握しておくことが大切です。体調の悪い子どもはいないかなど、健康管理にも徹底して注意を払うと良いでしょう。
寝相だけはでなく、布団や毛布、タオルなどが顔を覆うことがないように注意を払うことも重要です。呼吸を妨害することがあるためです。睡眠中も気を抜くことなく、子どもたちに対して細心の注意を払うようにしましょう。
衝突
子どもは活発であるため、他の子どもや物と衝突することがあります。ケガに繋がるため危険です。他の子どもがいることに気がつかずぶつかることや、かけっこ中に物と衝突することがよくあるのです。
衝突のヒヤリハットの事例として多い内容に「鬼ごっこ中に子ども同士がぶつかりそうになった」「遊具に衝突しそうになった」「イベントで使う予定だったセットに頭をぶつけそうになった」などがあります。
子どもは集中すると周囲が見えず、人や物に衝突する危険なケースがよくあるのです。勢いよく頭をあげた瞬間に机にぶつけるケースもあります。
ぶつけた場所が、机ではなく刃物や先の尖った物だとさらに危険です。大きなケガを負うケースもあるのです。
ケガを負う可能性がある物が周囲にないかを確認することが大切です。鋭利な物にはガードするカバーをつけるなど事前の安全対策を徹底して下さい。
子どもが行き交う場所では、危ない物を排除するなど環境を整えておくことが重要です。子どもに対してもわかるように説明するなど、普段から危険が発生しないように気をつけておきましょう。
不審者
保育園に不審者が侵入してくるケースや、知らない人が近辺をウロウロしている、など危険な場合があります。子どもたちに害を与えて事故に繋がるケースがあるのです。
不審者に関するヒヤリハットの事例で、比較的よく見られることが「知らない人が園内に入ってくるところだった」「不審者に子どもが話しかけられそうになった」「散歩中、公園で知らないおじさんが近づいてきた」などです。
小さな子どもは、知らない人から声をかけられるだけで恐怖を感じるものです。事件や事故に繋がることもあるため、警戒しなければなりません。
必要がないときは保育園の門や玄関を閉めておくことや、防犯グッズを持参しておくなど具体的にできる安全対策を見つけましょう。
また、日頃から子どもに対しても、知らない人に声をかけられても応じないように約束しておくことも大切です。一度ではなく定期的に約束しておくと忘れにくいでしょう。子どもが安心して過ごすことができる保育園を意識することが大切です。
食物アレルギー
食物アレルギーもヒヤリハットの原因となります。食物アレルギーとは、体内が反応する免疫反応です。体内が食べ物を異物と間違えて異常に働き、蕁麻疹や赤み、咳などの反応が起きます。
症状がひどい場合は、意識を失うアナフィラキシーや、生命を脅かすこともあるため危険です。食べたときにアレルギーが出るだけでなく、手や顔に触れただけでも症状を発祥するケースもあります。
食物アレルギーのヒヤリハット事例として「アレルギーを持つ子どもに該当の食べ物を出しそうになった」「食事の準備中に子どもがアレルギーの元となる食べ物に触れそうになった」などが考えられます。
子どもが食物アレルギーの場合は、保護者からアレルゲンとなる食物や症状、対処方法などを聞いておくことが必要です。食べさせない、触れさせないなど、対策を徹底する必要があるでしょう。保育士同士の情報を徹底して事故を防ぐことが大切です。
出典:食物アレルギーとは|国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
年齢別にみる保育園の安全対策
0歳児
0歳児は、危険を判断することが困難であるため大人が事故意識を持っておく必要があります。
睡眠中は「うつぶせにならないように仰向けで寝かせる」「ベッドの柵は固定しておく」など気を配りましょう。
また、子どもに物があたってケガをするケースがあるため「ベッドの周りに物を置かない」「布団や衣服の紐が出ないように気をつける」「上から物が落ちてこないようにする」など注意が必要です。
「ミルクを飲ませた後はゲップをさせる」「異物が口に入らないようにする」など誤飲防止を徹底しましょう。呼吸や睡眠が正常であるか、を定期的にチェックすることも忘れてはいけません。
1歳児
1歳児はハイハイから、つかまり立ちでする子どもも増えます。0歳児に比べて視野も広がるため、机など目に見える物に注意する必要があるでしょう。
例えば、「机の上に刃物や鋭利な物を置かない」「小さな欠片で遊ばせないように気をつける」などがあります。おもちゃなどを目や鼻などの入れさせないように注意しましょう。
また、水回りにも危険物があります。「キッチン洗剤や漂白剤を置かないようにする」など、調理で使う洗剤類を誤飲することのないように取り扱い方法に気をつけます。
その他、「階段やベランダに近づかせない」「おもちゃを見につけた状態で遊具を使用させない」など、ケガの原因となる行為は危険であるため十分に監視しましょう。
2・3歳児
2・3歳時の安全対策として徹底しておきたいことが誤飲です。この年齢の事故が比較的多い傾向にあります。1人で歩くことができる時期でもあるため、子どもの行動範囲も広がり危険です。
誤飲の安全対策には「小さいおもちゃを机に出したままにしない」「ビニール類や乾燥剤など誤って飲み込ませないようにする」などがあるでしょう。
また「部屋で走り回らないようにさせる」「園庭や遊具で遊ぶときは危険な行為に注意する」など、衝突やケガの原因となる行為にも気をつけておく必要があります。
その他「子ども同士で遊ぶときはふざけないようにさせる」「布団の紐などは子どもの近くに置かない」など思いがけない危険を想定して事故を未然に防ぎましょう。
4歳以上
4歳では事故が重症化しやすく、最悪の場合は死亡に繋がるケースもあります。子どもは意欲的に行動するため、活動範囲が幅広く事故の原因を招きやすいのです。
安全対策として「高い場所に登らせないようにする」「園内を走り回らないようにさせる」「遊具の安全な使い方を説明する」など、転落や転倒に繋がることがないように注意する必要があります。
また、散歩中には「道路での飛び出しに注意する」など、大きいケガの原因となる交通事故に注意を払いましょう。
「砂場で遊ぶときは石などの取り扱い方を説明する」「先が鋭い物や尖った物の安全な使い方を指導する」など、物の使い方を具体的に教えてあげることが大切です。園内の物を整理整頓するだけでも、事故を防ぐことができるでしょう。
保育園での損害賠償請求事例
プールでの事故
3歳の子どもが保育園のベランダに設置したビニールプールで溺死した事故があります。当時担当であった保育士が目を離した瞬間に、子どもがプールで溺れて死亡したのです。
子どもの保護者は、担当保育士が監視を怠ったとして監視義務違反による約6,700万円の損害賠償請求をしました。
裁判官は、一般的な幼児が「水深が数センチ程度であっても発生することが珍しくない」と指摘しています。
また「他の保育士に子どもの動向を確認するよう依頼すべきところを、その義務を怠ってその場を離れた」として、保育園に対して約3,400万円の支払い請求を命じました。
睡眠中の事故
1歳の子どもが睡眠中にうつぶせによる低酸素血症で死亡した事故です。当時、うつぶせ状態で寝ていた子どもを保育士が抱き上げると、チアノーゼ症状を引き起こしていました。死因は嘔吐物が気道を塞いだことが原因で、搬送先の病院で死亡が確認されています。
子どもの保護者は、当時保育士が睡眠中に仰向けに体制を変えて呼吸を確保するなどの監視を怠っていたとして、約8,600万円の損害賠償請求をしました。
保護者は、保育士が子どもの症状に気がついてから119番通報するまでに20分以上が経過していたことも指摘しています。保護者の訴訟を受けて裁判では、保育園に対し約2500万円の和解金の請求をしています。
遊具での事故
当時3歳の子どもが、園庭にあった木製の遊具に首を挟まれて死亡した事例です。別の子どもを保育中だった保育士が異変に気がついて応急処置を施した後、救急車で搬送されましたが、事故から9ヶ月後に低酸素脳症で亡くなっています。
園庭の遊具は保育園が特別に発注した物で、安全基準を満たしていない木製のうんていでした。保育園はうんていの危険性を把握していませんでした。
保育園や保育士に対して遊具の危険性を放置した過失があるとして、約5,500万円の損害賠償請求をしています。裁判所は賠償責任を認めて約3,100万円の支払いを命じました。
従業員の教育が重要
保育園で事故を防止するためには、保育士ら従業員が子どもを守る安全対策に対しての意識を高めておく必要があります。
保育園が主体となって救命措置を指導することや、事故の対処方法などに関する講習を開くなどして、全員に周知徹底しておくことが重要なのです。
万が一事故が発生したときの、誰が何をするかなど具体的なマニュアルを作成しておくことも良いでしょう。
ヒヤリハットが起こりそうになったときは、原因を追求するなどして、重大な事故に繋がらないように体制を強化しておくことも一つの方法です。
まとめ
この記事では、保育園の安全対策についてご紹介しました。安全対策の必要性や具体的な方法について理解していただけたのではないでしょうか。
保育園では、安全対策を通じて子どもたちが安心して過ごすことができる環境作りが大切です。過去のデータや事例を元に、原因を分析・研究して事故を未然に防ぎましょう。
参考文献:
内閣府
令和2年教育・保育施設等における事故報告集計
内閣府
教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会
内閣府
教育・保育施設等における事故報告集計
厚生労働省
2018年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
食物アレルギーとは