1.保育業界の問題とは?
保育業界を取り巻く環境には、待機児童や保育士不足をはじめとした様々な問題があります。主な6つの問題を詳しくみていきましょう。
待機児童問題
厚生労働省「令和3年度4月待機児童数調査のポイント」によると2022年の保育園の待機児童数は5,634人、直近で最も多かった2017年の26,081人から約5分の1に減少しています。
しかし人口が増加傾向にある地域では、保育園の増設が間に合わずに待機児童は増えています。
また、厚生労働省によれば、2021年と2022年は新型コロナ感染症拡大の影響で保育園の申し込みが抑えられていたものの、感染症の終息とともに保育ニーズは再び増加するとも予測されているため、引き続きの対策が必要と言えそうです。
保育士不足
厚生労働省の「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」によると、2021年度の保育士の有効求人倍率は2.66倍となっています。全職種平均は1.16倍ですから、保育士の求人倍率は非常に高い水準です。2019年の保育士の有効求人倍率3.86倍と比較すれば減少していますが、保育士不足の厳しさは変わりありません。
また、保育士養成校卒業者のうち約半数が保育所に就職しないことが、2017年の厚生労働省による「保育人材確保のための『魅力ある職場作り』にむけて」の資料の中で示されています。保育士として働きたくない理由は「賃金が希望と合わない」「休暇が少ない・休暇がとりにくい」ことなどが挙げられ、保育士の処遇改善や勤務環境の改善が求められています。
保育士の過重労働
保育士不足の要因のひとつに業務の多さが挙げられます。保育士は子どもたちの保育や生活サポートに加え、連絡帳や日誌の記入、指導案の作成などの書類業務、イベント・行事の企画や準備など多岐にわたります。子どもが園にいる間は保育業務に集中しなければならず、書類を作成する時間を確保することも難しいものです。そのため、午睡中や休憩時間に作業したり、子どもが降園したあとに残業や仕事を持ち帰ることも珍しくありません。
こういった過重労働が離職の原因になりますが、保育士が離職すればさらに人員に余裕がなくなり、個人の負担が大きくなるという悪循環に陥っています。
人間関係にストレスを抱える保育士の多さ
保育士の離職理由には人間関係のトラブルも目立ちます。2018年の東京都による保育士実態調査では、保育士を辞めた理由として「職場の人間関係」と回答する人がもっとも多い結果でした。クラス運営や行事運営など保育士のチームワークが必要となってきます。保育観の違いがあったとしても、折り合いをつけて連携をしなければ、子どもの安全にも影響してしまいます。
また、時には理不尽なクレームを受けることもある保護者対応に負担を感じ、仕事を離れる人も多くいます。
保育士の処遇
多忙で責任は重く精神的ストレスも多いのに給与は低いという保育士の処遇の低さは社会問題になり、国は保育士の処遇改善に向けた取り組みをしています。
2020年度の厚生労働省の賃金構造基本統計調査で発表された保育士の平均年収は約374万円であり、2017年の約342万円と比較すれば上がってはいるものの、命を預かる責任であることや専門の資格を必要とすること、さらに膨大な仕事量を考慮すると十分とは言い難い面があると言えます。
潜在保育士
保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない人を「潜在保育士」と呼びます。厚生労働省「保育士の現状と主な取組」によれば、2020年度は約95万人の潜在保育士がいるとされています。潜在保育士が増えた背景には、保育士の処遇が低いことや子育てとの両立の難しさ、子どもの命を預かる責任の重さや事故への不安などが考えられます。
また、保育士として働きたいという希望があるものの、希望の条件にあった求人がないというケースもあります。そのため、厚生労働省は保育士確保プランを打ち出し、保育士の再就職を支援しています。
2.保育業界の問題の解決策
保育業界を取り巻く問題を解決するには政府や自治体の施策を待つだけではなく、園単位で工夫することも大切です。それぞれの施設でできる解決策をご紹介します。
労働環境の改善
職場である保育園ができることは保育士が働きやすい環境をつくることです。給与をすぐに上げることは難しいかもしれませんが、具体的な方法として下記が挙げられます。
- 残業を減らすために業務内容を見直し、精査する
- 休日を確実にとれるよう人員配置を見直す、工夫する
- 短時間勤務制度を導入する
- 保育ICTシステムを導入し、業務効率化する(後ほど詳しくご紹介します)
また、保育士の頑張りに応じた報酬が出せる独自のキャリアアップの仕組みをつくることも、モチベーションアップに効果的です。
良好な人間関係を築く環境づくり
人間関係を円滑にするためにコミュニケーションがとりやすい環境作りを心がけましょう。コミュニケーションを円滑にするためにできることとして、
- 管理者から職員へ声掛けを行う
- 職員同士が会話をする機会を増やす
- 個人面談を定期的に行う
- 指導体制を工夫する
といったことが挙げられます。厚生労働省が配布している「保育士が働きやすい職場づくりのための手引き」を参考にするのもおすすめです。
保護者との円滑な関係を作る
保護者対応のストレスやクレームも保育士の離職理由の1つです。保護者対応は保育士個人に任せきるのではなく、園として対応することが大切です。保護者との円滑なコミュニケーションを図るための工夫としては、下記が挙げられます。
- 保護者の満足度調査を行い、結果を共有する
- 保護者への接遇向上のため、外部研修を設定する
- 連絡帳や連絡帳アプリの活用する
- トラブルになる前のマニュアルを見直す
潜在保育士の復帰を促す
潜在保育士の中には出産で現場を離れた保育士も少なくありません。2〜3年以上のブランクを不安に思って復帰できない人や、子育てしながら多忙な業務をこなせないと諦めている人もいるでしょう。潜在保育士の復帰支援のためにできることとして、
- 園内の研修体制を整える
- 保育士・保育所支援センターとの連携を強化する(就職相談会への参加など)
- 短時間勤務制度の導入
が挙げられます。また、国が実施している潜在保育士復帰の取り組みを利用することも手段の1つです。
<国の潜在保育士の復職率を上げる取り組みの例>
- ハローワークを通じた潜在保育士と保育施設のマッチング
- 潜在保育士の保育実技研修の強化
- 潜在保育士のブランク解消のための保育士職場体験講習会の実施
保育ICTシステムの導入
保育ICTシステムは、保育園の業務支援に特化したシステムです。スマートフォンやパソコンを使用して、日々の保育記録や事務業務などの保育に関する事務負担を軽減します。
<保育ICTシステムでできること、機能例>
- 園児の登園降園を自動記録する機能
- 延長保育料の自動計算する機能
- 職員のシフト管理をする機能
- 園児人数から保育士の必要配置人数を自動計算する機能
- 過去の計画を参考(コピー)にして、新しい計画を作成できる機能
- 災害時や行事連絡など保護者への一斉連絡機能
ほかにも、
などの保育ICTシステムがあります。
これらの保育ICTシステムを活用することで残業時間の削減や休日の確保ができます。また、午睡チェックや延長料金の計算で起きるヒューマンエラーを防ぐこともできます。
3.まとめ
保育業界を取り巻く問題はこのように多岐にわたっており、また、待機児童は減少しつつも人口が多い地域ではいまだに大きな問題となっています。
また、保育士の処遇の低さや仕事の多さなどによる保育士不足も続いています。
こういった保育業界の問題を解決するためには、園単位でできることを着実に実行していくことが重要です。保育士の労働環境の改善やチームで働きやすい環境づくり、保護者との円滑なコミュニケーションを図る仕組みを作るなど、工夫をしていきましょう。
また、保育士の業務を大幅に削減できる保育ICTの導入も効果的です。ICTシステムが生み出す時間や便利な機能は様々な解決策の助けになるでしょう。
【参考サイト】
厚生労働省 令和2年 保育所等関連状況取りまとめ
厚生労働省 平成29年 保育人材確保のための『魅力ある職場作り』にむけて
厚生労働省 令和3年 令和3年4月の待機児童数調査のポイント
厚生労働省 令和2年 保育士の現状と主な取組
厚生労働省(委託:楽天リサーチ株式会社)平成27年 保育士が働きやすい職場づくりのための手引き