モロー反射とは何か?

「モロー反射」とは、新生児に見られる原始反射の1つです。外部からの刺激に対して手足をビクッとさせ、万歳をするように腕を広げて指を開き、続いて何かに抱きつくような左右対称の動作をします。この一連の様子がモロー反射と呼ばれています。

モロー反射は新生児に見られる正常な反応です。このモロー反射の詳細について見ていきましょう。

そもそも原始反射とは?

「原始反射」とは、生まれた時から備えている反射的な運動(不随意運動)のことです。脳幹によってコントロールされている動きで、その出現と消失を確認することは、中枢神経の発達状況の指標となります。

 

ほとんどの原始反射は生後0~3ヶ月頃まで活発に表れ、その後しだいに消失し、自分の意志で身体を動かす随意運動ができるようになるでしょう。

 

原始反射はモロー反射だけでなく、足や指、口などさまざまな部位で見られます。例えば、口に入ってきたものに反射的に吸いつく「哺乳反射」や、手の平や足の裏に人の指やものなどが触ると反射的に握りしめる「把握反射」などは有名です。

 

哺乳反射には、口の周辺や唇を刺激すると顔を動かして口を開く「探索反射」や「捕捉反射」、乳首や指をくわえると舌を動かして吸う吸綴(きゅうてつ)反射があります。

 

哺乳反射は生後5〜7ヶ月頃に、手の把握反射は生後4ヶ月頃に、足の把握反射は生後11ヶ月頃になくなります。

 

また、赤ちゃんの脇を持って支えながら立たせるように足の裏を床につけると、まるで歩いているかのように足を交互に動かす「自動歩行」も原始反射です。この動きは生まれたばかりの頃だけに見られます。

 

さらに、「非対称性緊張性頸反射」は決まった形で手足を屈伸する動作のことです。これは、仰向けで寝ている新生児の頭部を片方に向けると、顔を向けた方の手足を伸ばし、反対の手足を曲げるのが特徴です。非対称性緊張性頸反射は生後5〜6ヶ月頃から消失します。

 

最後に、紹介するのは「バビンスキー反射」で、これは足の裏を刺激すると、足の親指が外側に曲がって広がる動作です。バビンスキー反射は出生直後から見られ、生後1〜2年程度で消失します。

モロー反射の原因は?どんな時に起こる?

モロー反射を引き起こす原因は、大きな音や明るい光、触られた感触、身体がグラッと傾くような刺激など、外部からのさまざまな刺激です。

 

例えば、赤ちゃんをベッドに寝かせる際に、ベッドの感触や寝かされるまでの不安定な姿勢によってモロー反射を引き起こしてしまうことがあります。また、自分自身の動きに驚いてモロー反射が起こることもあります。

 

モロー反射は、新生児が外部から来る危険から自分の身を守るために引き起こされる反応です。危険の予測が難しい生後間もない新生児は、このようにあらゆる外部刺激に反応してモロー反射が引き起こされると考えられています。

モロー反射はいつからいつまで続く?

 

子どもの発達には個人差があり、原始反射の消失時期も赤ちゃんによって異なりますが、モロー反射はおよそ生後0~4ヶ月の間に見られる原始反射です。

 

そして、生後4~5ヶ月になると、ほとんどの赤ちゃんはモロー反射が消失します。生後4ヶ月頃を過ぎると、徐々に随意運動が発達していくため、モロー反射が見られなくなります。

モロー反射の多い赤ちゃん・少ない赤ちゃんの特徴

子どもの発達は個人差がありますが、モロー反射が多かったり少なかったりすると、心配になる保護者もいるでしょう。モロー反射の多い赤ちゃんや少ない赤ちゃんの特徴を解説します。

モロー反射のとても多い赤ちゃん

赤ちゃんによっては、モロー反射が1日に連続して何度も起こり、睡眠がうまくとれないことがあります。このような場合は、モロー反射がとても多い赤ちゃんと言えるでしょう。

 

モロー反射がとても多い赤ちゃんは、寝かせようとしても赤ちゃん自身の動きに驚いてモロー反射が起きてしまうこともあるため、保護者が悩んでしまうことも多いでしょう。

 

しかも、モロー反射が激しすぎる場合は、赤ちゃんにてんかんなどの病気が隠れている可能性もあるため、心配な場合は医師に相談しましょう。

モロー反射の多い赤ちゃん

モロー反射が1日に何度も見られる赤ちゃんは、モロー反射が多いと言えるでしょう。このような場合は、刺激が強い場所で過ごしている可能性があります。赤ちゃんの様子をじっくりと観察し、モロー反射が出やすい状況や条件を見つけ出して環境を整えます。

 

大きな音に驚く赤ちゃんは静かな場所に移す、温度や湿度に敏感な赤ちゃんは衣類や室温を調整するなどの対処法をとりましょう。

 

モロー反射は個人差が大きいため、心配しすぎないようにしましょう。

モロー反射の少ない赤ちゃん

モロー反射をあまりしない場合や左右非対称に手足が動く場合は、脳や中枢神経に問題がある可能性があります。また、「核黄疸」により運動機能や筋力が弱っている場合もあるでしょう。

 

核黄疸とは皮膚や眼球が黄色くなる黄疸の一種であり、赤ちゃんに病的な黄疸が持続することで起こる脳の障害で、運動機能や筋力に影響を及ぼすことがあります。

 

ただし、モロー反射は個人差が大きく、あまり反応しない赤ちゃんもいます。時々モロー反射が見られれば、問題はないでしょう。

 

出典:早産児ビリルビン脳症(核黄疸)とはどのような疾患か|日本医療研究開発機構(AMED)

 
 

モロー反射がなくならない赤ちゃん

ほとんどの赤ちゃんは生後4~5ヶ月頃にモロー反射が消失しますが、その時期をしばらく過ぎてもモロー反射が現れる場合は、「脳性麻痺」の可能性もあります。

 

脳性麻痺は、胎児期から生後4週間までの間に発生した脳損傷によって引き起こされる運動機能障害です。モロー反射のような動きのほかに、手足の麻痺や体の硬さ、反り返りが強い、手足の不随意運動なども見られます。

 

脳性麻痺に関しては後述するため、参考にしてください。

 

モロー反射と見分けが難しい疾患

モロー反射は新生児ならではの正常な反応であり、大人の目には可愛らしい動きと映るでしょう。しかし、その動き方や頻度、消失時期によっては何らかの疾患のサインである可能性も考えられます。

モロー反射と見分けがつきにくい疾患を紹介します。

①てんかん

モロー反射が外部からの刺激によってびくっと反応するのに比べて、特別なきっかけがないのに両手を挙げる動作やしゃっくりみたいな動きを繰り返す場合、「てんかん」の症状である可能性があります。

 

生後6ヶ月前後で発症するてんかん症候群の「ウエスト症候群」は、両肩をすくめるように両手を持ち上げたり、座っている姿勢から前に倒れ込むような動作を数十秒おきに繰り返します。

 

ウエスト症候群は、脳形成異常や外傷後の脳損傷、脳腫瘍、代謝異常などの基礎疾患を持っている子どもに現れる難治性のてんかん症候群です。

 

ウエスト症候群以外にも、ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群などてんかん症候群にも分類があります。診断において細かい分類まで分かると、治療の面で役に立つため、気になることがあれば記録しておくと良いでしょう。

 

てんかん症状はそのきっかけや動きの違い、1回あたりの持続時間(てんかん症状のほうがやや長い)などで、モロー反射やしゃっくりと区別することは可能ですが、心配な場合はその様子を動画に撮影して、早めに小児神経科医に相談しましょう。

 

 
 
 

②発達障害

発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」と定義されています。

 

発達障害の症状としては、言葉の発達の遅れやコミュニケーション障害、行動のこだわり、多動・多弁、不注意、衝動性、運動チック・音声チック、吃音などです。モロー反射が長く続いていると、発達障害に結びつけてしまう保護者もいるでしょう。

 

現在、モロー反射を含む原始反射の程度やその消失時期と発達障害との関連性は不明なことも多く、明確な結論には至っていません。心配な時はモロー反射の状況を記録にとっておくと、医師に相談する際に役立つでしょう。

 

モロー反射がきっかけで気づく疾患

正常な反応であるモロー反射ですが、その様子を観察していることがきっかけで、子どもの疾患に気づくこともあります。その代表的な疾患が脳性麻痺です。

脳性麻痺について詳しく見ていきましょう。

脳性麻痺の症状と原因

前述したとおり、モロー反射が消失する時期をしばらく過ぎてもモロー反射が現れる場合は、脳性麻痺の可能性も考えられます。
脳性麻痺は、胎児期から生後4週間までの間に発生した脳損傷によって引き起こされる運動機能障害です。

 

脳損傷の主な原因は感染や低酸素、脳血管障害、核黄疸などが知られていますが、原因不明の場合も多いでしょう。
主な症状は、手足の麻痺や体の硬直、強い反り返り、手足の不随意運動などがあります。

 

 
 
 

脳性麻痺が疑われる状態

脳性麻痺が疑われる症状は、脳の損傷部位に応じてさまざまな形で現れます。まず、筋肉のこわばりや筋力の低下がある場合、手足の麻痺やけいれん、反り返り、嚥下困難などが見られます。

 

アテトーゼ型と言われる脳性麻痺は、自分の意思とは関係なく体が勝手に動く不随意運動が出現し、感情の波に応じて激しくなる傾向にあるでしょう。この場合、難聴を併発している場合もあります。

 

手足が震えたり体のバランスがうまくとれないのは運動失調型です。体の動きを調整する機能が障害されています。
また、上記の症状が混合していることもあり、重度の知能障害を伴うこともあるでしょう。
ただし、子どもの発達はそれぞれで個人差も大きい上に、理由の分からない動きをすることも多いため、赤ちゃんの一挙手一投足に病気を疑うほど過敏になる必要はありません。

 

モロー反射のおおよその消失時期を知っておくことが、赤ちゃんの抱えている疾患をより早く発見できる一助となるでしょう。

 

赤ちゃんのモロー反射が激しい時の対処法

モロー反射の激しさや多い・少ないは、多くの場合正常範囲内で心配ありません。ただし、激しいモロー反射によって睡眠がうまくとれない場合などは、赤ちゃんにとっても保護者にとっても苦痛を伴うでしょう。

ここからは、赤ちゃんのモロー反射が激しい時の対処法を紹介します。

おくるみを使用する

モロー反射の対処法として、おくるみで包む方法があります。手足がほどよく固定されているため、モロー反射が起きても驚いて目を覚ましたり、泣いたりすることを防げます。また、赤ちゃん自身の動きが原因のモロー反射もなくなり、ぐっすりと眠れるでしょう。

 

おくるみの基本的な巻き方(スワドリング)は、まず正方形のおくるみをひし形になるように置き、赤ちゃんの頭がくる角の部分を折り返します。そして、折り目が肩の位置にくるように赤ちゃんをおくるみの上に寝かせます。

 

続いて、赤ちゃんの左腕を胸の上に起き、右側の布を左の下へと包み、先端は体の下まで入れるように包みます。赤ちゃんの右側も同じようにくるんだら、先端を身体の下までしっかり入れて完成です。窮屈にならないように調整し、しわを伸ばしてあげましょう。

赤ちゃんの過ごす環境を改善する

モロー反射を軽減させるには、その原因となる外部からの刺激をなるべく避けられるように、赤ちゃんが過ごす環境を改善することが重要でしょう。

 

直接光や風が当たらない静かな場所で寝かせる、寝かせる時に赤ちゃんの体勢が大きく変わらないようにする、寝具の温度を体温ぐらいに温めておくなどの方法が考えられます。

まとめ

モロー反射は新生児期に見られる自然な反応です。そして、モロー反射の出現・消失時期やその様子などで、子どもの発達状態の指標や疾患に気づくきっかけになることがあります。

 

また、激しいモロー反射で赤ちゃんが泣いてしまう、なかなか眠れないなど、保護者が困ってしまう場合は、環境を整えたりおくるみを使用したりするなどの対処方法を試してみましょう。

 

なお、モロー反射を通して不安を感じた場合は、病院で相談することをおすすめします。