保育所におけるPDCAを支えるシステムとは?

 

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  1. PDCAサイクルの保育所における重要性
  2. ガイドラインにはどう書いている?
  3. 具体的な機能はどうなる?
    1. PDCAサイクルの「P」
    2. PDCAサイクルの「D」
    3. PDCAサイクルの「C」
    4. PDCAサイクルの「A」
  4. PDCAサイクルにおけるICTの役割
  5. まとめ

 

1. PDCAサイクルの保育所における重要性

近時、保育の業務の効率化を進めつつ、保育の質を引き上げていくために、保育においてPDCAサイクルを実践していくことの重要性が強調されています。

しかし、いまだアナログでの振り返り作業に留まっているのではないでしょうか。

他方で、保育指針においても、保育の自己評価を進めていく過程において、「職員間の情報の共有や効率的な評価の仕組みをつくるために、情報通信技術(ICT)などの積極的な活用も有効である。」(保育所保育指針 フレーベル館版 p56)とされています。

とすれば、保育所向けのICTサービスの様々な機能を有機的に再構成することにより、同システムを、印象や感想ではなく、実データに基づいた保育所保育のPDCAサイクルを実効的に行える「データドリブンなプロの保育士のためのツール」に刷新させていくことが求められていくのだろうと思います。

そのため、改めて、保育実践におけるPDCAサイクルとは、何なのかについて、既存資料を確認してみます。

保育所保育指針の第1章 総則、3 保育の計画及び評価の「(4)保育内容等の評価」において、自己評価の重要性について定め、「保育士等の自己評価」という保育者個々の振り返りと、「保育所の自己評価」として組織運営の組織としての自己評価について定めている。

さらに、この自己評価の過程を詳しく説明しているのが、「保育所における自己評価ガイドライン」で、この中で、明示的にPDCAサイクルについて具体的な姿が論じられています。

 

<保育所における自己評価ガイドライン>

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku01.pdf

 

2. ガイドラインにはどう書いている?

同ガイドラインにおける、PDCAサイクルについての記述をいくつか具体的に見てみます。以下の○の文書及び図1は、上のPDFからの引用です。

○ 保育所では、保育指針を踏まえた保育課程を編成し、それに基づく指導計画を作成します。計画(Plan)に基づき実践し(Do)、その実践を評価し(Check)、改善(Action)に結び付けていくというPDCAの循環の継続が重要であり、これらの連動のなかで保育の質と職員の協働性が高められていきます。

○ 図1は、保育の計画(P)-実践(D)-評価(C)-改善(A)からなる循環的なシステムの理念モデルを示したものです。この一連の流れは、保育士等個人によって行われるものと保育所(組織)として行われるものとが、相互に関連しながら絶えず営まれていくことを想定しています。

○ 自己評価は、さらにC1・C2・A の3つの過程に分けて考えることができます。

 

 

○ C1では、個々の保育士等がそれぞれの実践を振り返り、他者に語ったり文章化していきます。こうした振り返りの過程では、個々の保育士の子ども観、保育観、発達観や保育に関する知識、技術などが反映されます。

○ さらに、自らのあるいは他者の保育実践を省察することにより、職員間の相互作用が促され、多様な視点から子どもや保育について見直したり、保育への意欲を高めたりします。

○ 個々の保育士等の保育実践を言語化し、保育所という組織としての保育や子ども理解へと転換・統合するのが、次のC2です。ここでは、C1 の過程で確認したり理解を深め合ったりしたことを、園内研修などを通じて組織的に共有します。

○ さらにA では、共有され深まった理解を、保育指針に基づく評価の観点に照らし合わせ、保育所全体として大切にしている価値や今抱えている課題を明確にします。このことにより、次のステップに向けて取り組む職員全員の意欲や姿勢が形成されていきます。

 

3. 具体的な機能はどうなる?

同ガイドラインで示された「理念モデル」に則して、ICTシステムの機能を整理してみた一例が、次の表です。

この整理例では、C2段階とA段階を組織内での「共有」場面として、ICTの機能との関係では、一つのステップと整理してみました。

 

 

3-1. PDCAサイクルの「P」

まず、PDCAサイクルのP、つまり計画策定については、指導計画の作成機能が、そのものズバリということになります。勿論、指導計画の作成機能と言っても、単に、定まった様式をテキストエディターで埋めていく「清書」(専用ワープロ)機能だけから、様々なアシスト機能を備えたもの等々、機能について色々と構想はできると思います。ただ、PDCA「サイクル」を目指すということであれば、A(改善策)のステップからのフィードバックを、効率的に反映させるという機能は、視野に入れるべきでしょう。この場合には、A段階の検討成果をどのようにデジタル記録化しておくべきかということを踏まえて、オブジェクトやデータベースを設計することが必須になります。

 

3-2.PDCAサイクルの「D」

次のD、実際の保育実践の段階ですが、この場合でICTシステムの出番はあまりないと考える向きもあるかもしれませんが、計画→実践の間で見逃されがちな、「段取り」を自覚的視野に入れると、ICT化によって、効率化、付加価値向上を図ることができる部分が見てきます。

最も大事なのは、シフト作成機能であり、この機能に基づいて、計画を実施していく上での保育スタッフの必要な行動を具体化していくことが可能になります。また、計画を進めていく上で必要となる物的基盤となる「環境構成」に向けた必要なものを調達するための仕組みもICT化することで重要になってくるでしょう。在庫の把握やネット通販による効率的な調達の仕組み、さらには、その調達の予算執行管理も付随的に自動化させるということも発想としてはあるでしょう。

さらに将来的に最も発展する必要があるICTとしては、デジタル教材の分野でしょう。保育所の場合、いわゆるデジタル教科書やe-learningのようなものだけでなく、子どもの体験を拡張させるようなARやVRの進歩をどのように、保育システムの中に取り込んでいくのかということが、大きな沃野ではないかと思います。

 

3-3. PDCAサイクルの「C」

さて、C1の「評価」ですが、これは、保育士の「事務作業」の中核部分であり、保育所向けICTシステムで「効率化」されると宣伝される部分であることもあり、様々な機能が実装されています。保育日誌、発達記録、連絡帳アプリなどなどです。

これらの機能をPDCAサイクルに位置づけ直すという場合には、これらの機能が、同ガイドラインにおけるC1段階の「個々の保育士等がそれぞれの実践を振り返り、他者に語ったり文章化」することを支援するようなものとなっているのかを自覚的に点検していくことがベンダー側に求められると思います。

 

3-4.PDCAサイクルの「A」

さらにC2/Aの段階では、保育所という組織内における「共有」がキーワードであり、この情報の共有は、冒頭で紹介した保育指針においてもICTの活用方法として指摘されていた部分です。勿論、この場合に、共有されるべき情報は、単なる事実関係ではなく、「構造化」されていることが重要で、そのために事実関係の羅列ではなく、分析を経て、評価されていることが必要です。そこで、上の整理表の「C2/A」の欄では、各種の分析やドキュメンテーションの作成支援を、ICTに求められる機能として位置づけています。

この分野は、まだ試行的な部分も多く、我々も分析アルゴリズムの検討や表現手法の研究をon goingで進めているところです。

 

4. PDCAサイクルにおけるICTの役割

整理してみ分かることは、保育所におけるPDCAサイクルの主役は、やはり人間である保育者であるということです。そして、ICTシステムの役割は、その人間の実践や判断のための材料をより効率的に提供するものであるということです。

システム設計上「迷う」部分は、C2/Aで構造化され、共有された洞察を、次のサイクルのPに反映させる課程に、「どこまでシステムが関与するべきか」というところではないかと私は思います。例えば、「園が大切にしている価値や課題」やそれを達成するための「改善」方法について、システム上から「保育計画」にコピペできるようにすることが良いのかどうか、人間の認知や思考という観点から迷うところです。しかし、こういう面は、事前に迷うよりも、実装してみて考えるということでしょう。

少なくとも、評価:C1やC2,そして改善:Aの段階で、ICTシステム、特に機械学習システムによって、保育実践の適否を文字通り機械的に判断したり、機械学習の分類器で改善策を決定させたりということが望ましいとは思っていません。

それよりも、評価や改善方法の検討の前提となる保育実践の記録化を効率化、高度化することが、今求められているのだと思います。保育日誌をより効率的に記録化する(音声入力や画像認識の利用)、発達記録、連絡帳への記載、写真や動画の撮影、お昼寝センサー等々、様々な方法で、保育実践の記録を、機械で手軽に実施できるようにするということが、保育所におけるPDCAサイクルを支えるICTシステムに期待されていることなのだと思っています。

 

昨今では、保育所保育における「理念を実現するための方法」として、PDCAではなく、OODAを採用し、実践されている施設も存在していると伺います。例えば、「保育の変革期を乗り切る園長の仕事術」という本では、「(OODAは、)不安定、不確実、複雑で曖昧な環境を的確に正しくとらえ、直感的に判断する方法」と評価し、「不確定要素の多い保育を思うとき、このOODAという考え方が理にかなっていると思います。」とされています(同書 p91~92)。

このOODAの観察(observation)→状況判断(orientation)→意識決定(decision)→行動(action)というプロセスを支援する保育所向けICTシステムの具体的な機能を思いついている訳ではありません。しかし、今後さらに強く要請されていくであろう「個別最適化された保育」という理念を実現するための振り返り、改善のプロセスを支援することが、ICTシステムに求められていくのだろうと思います。

 

5. まとめ

今後、保育所におけるPCDAサイクルの重要性が高まり、そのPDCAサイクルにおいてICTを活用されることが、さらに求められるようになるでしょう。「保育所における自己評価ガイドライン」の中で、保育所におけるPDCAの進め方については、具体的な記述がなされています。この記述に沿って、ICTシステムの機能を整理することによって、PDCAサイクルをサポートするように、ICTの機能を再構成できます。

勿論、PDCAサイクルの主役は、人間である保育者であり、ICTシステムはあくまでサポート役です。「個別最適化された保育」という理念を実現するためのICTシステムの実現に向けて注力していきたいと思っています。